"好き"と"関心"を巡る冒険 第二章 前編 vol.2

<前回のあらすじ>

2007年に会社が合併し、
合併先の部署との直接の交流はないまま、
自分や周囲の社員は、合併先に対して相容れない気持ちを深めていった。

前回→"好き"と"関心"を巡る冒険 第二章 前編 vol.1 - Sato’s Diary
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2008年12月。
新人のHさんがOJTの一環として、
私がリーダーを務めるプロジェクトに配属された。

当時の人事部長は彼女のことを気に入っていて、
ことあるごとに、状況確認と称しては彼女に電話をかけてきて、
仕事とさして関係のない内容で長時間、彼女の仕事の手を止めさせた。

人事部長は合併先の人だった。


ある時、数日に及ぶ新人用の社外研修が、
唐突に組み込まれてきたこともあった。

「人事部長のところに研修会社の営業が来て決まったらしいですけど、
 なんか、政治的な事情が絡んでるみたいな?」
Hさんが言った。


現場のことなど全くお構いなしに、
くだらないことで現場を振り回す、
親会社出身の人事部長に私はイラついた。


 * * *


2010年1月。
私がリーダーを務めるプロジェクトは、
3月末リリースに向けて佳境を迎えていた。

ところがある日、
本社での会議を終えて、私たちのいる常駐先の職場に戻ってきたS課長が
「Aさんが異動することになった」
開口一番にそう言った。

ベテラン社員のAさんは、私のプロジェクトのメンバーだった。
私のプロジェクトが開発していたのは、
現行システムを災害時にサテライトで継続運用するためのBCPシステムで、
現行システムに対する知見が必要だったが、
プロジェクトメンバーの中では、
Aさんが唯一、現行システムを触ったことのある人だった。

「どういうことですか?」
顔をこわばらせて尋ねる私に、
合併先の部署の某プロジェクトで人が足りずにヘルプ要員を募集していて、
そこにAさんがアサインされたのだとS課長が説明した。

確かに、数日前に社長から全社員宛てにメールが来て、
どこかのプロジェクトが大変だから人を貸してくれ、ということが書かれていた。

「だけど、私のプロジェクトだって、これから佳境ですよ?
 Aさんがいなくて、どうやって行けっていうんですか?
 なんで断らなかったんですか?」
詰め寄る私に、
「仕方ないんだ。有無を言わせず、無理やり奪われたんだ」
そうS課長は言った。


ぶちり。
と、私の中で何かが切れた。

合併先の部署のプロジェクトと、
私たちのプロジェクトは大きさが全く異なり、
売り上げも数桁違いだった。

日頃の、S課長たちが交わしている会話の内容や、人事部長の態度からは、
親会社出身者たちが、売り上げの小さな私たちの仕事を
軽んじているように感じられた。

だけど、売り上げが小さいからって、
私のプロジェクトは、どうなってもいいと言うのか?
売り上げの大きさとプロジェクトの価値が、
単純に比例するとでも言うのか?

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メラリ、と怒りの炎が私の中に上がった。

(何としてでも、Aさんを取り返す。私は、泣き寝入りしない)

プロジェクトリーダーとして、
このプロジェクトを無事ゴールさせることが私の役割なんだ。

(私は私の役割を果たすために、やれることは全部やる)

そう心に決めて、私はAさんを取り戻すための策を練り始めた。


(つづく)

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