"好き"と"関心"を巡る冒険 第二章 前編 vol.7

<前回のあらすじ>

体調をどんどん悪化させていった私は、悩み抜いた末、
プロジェクトリーダーを降りる決断をした。

前回→"好き"と"関心"を巡る冒険 第二章 前編 vol.6 - Sato’s Diary
全話リストはコチラ


2010年4月。
私は、2ヶ月間の休職に入った。

「きっとストレスが原因なのだから、
 ゆっくり休めば、すぐ良くなるでしょ」
それくらいに構えていたが、
一度崩した体調は簡単には戻らず、
少し家事をしては、すぐにぐったりして休むような日々で、
一日の活動時間は正味4時間くらいの日々だった。

それでも、外気が暖かくなっていくにつれて、
徐々に小康状態となり、
外のカフェでゆっくり過ごす時間を持つこともできるようになってきた。


色々なことをゆっくり考える時間を持てるようになった私は、
「いったんここで、自分のゼロ地点を把握する必要があるな」
と思った。

ずっと残業が当たり前の仕事を続けてきていた。
残業せずにいられたのは、
手伝いレベルの仕事だけを振られていた
社会人1年目の途中までだった。

そこから無我夢中で仕事をしていくうちに、
気が付いたら、
平日は朝から晩まで仕事で埋め尽くされて、
代わりに休日にやりたいことを
いっぱい詰め込むような生活を続けていて、
自分にとって無理のないフラットなラインがどこなのか、
わからないままに、いつのまにか限界を超えてしまっていた。

休職に入る直前の時期の私は、
日曜の夜になると、決まって悪寒を催していた。
「明日、仕事か。嫌だな」
と思ったのではない。
「今週末も、やりたいことを全然進められなかった」
そう思った瞬間に、
決まってお腹のあたりがキュッとなって、悪寒が襲ってきたのだ。

いつのまにか、
『やりたいこと』までもが、
『やらなければいけないこと』になってしまって、
あっぷあっぷな状態になっていたのだ。

(時間もお金も、ゆとりを持って使うことが豊かさだよな)

やりたいことや欲しいものが、
本当に必要かどうかを考えて、
溢れ出すものは思い切って捨てないといけない。


そう考えて、
いつか見ようと思って、たくさん録り溜めていた録画は
「この休みの間で見ないなら、もうこの先も見ないよね」
と、思い切って全て削除した。

休みの後半の5月には、
いつか行ってみたいと思っていたパリに、
思い切って2週間行ってみた。

体調が戻りきっていない状態だったので、
満喫しきれたとは言えないけれど、
『人生は積み重ねではなく、積み減らし』
どこかで聞いた、そんな言葉を思い出しながら、
「人生って、こうやって、
 やりたいと思っていたことを、やったり、捨てたりしながら、
 心残りをひとつずつ減らしていくものなのかもしれないな」
そんなことを思いながら、パリの街並みを楽しんだ。


パリから戻り、職場復帰が近づき、
仕事のことも考え始めた。

(私はやっぱり仕事が好きだな)
そう思った。

自分で何かを働きかけて、変えたり進んだりしていくこと。
何か問題があっても、色々模索しながら、
少しでも良い方向へと切り拓いていくこと。

そんな仕事が好きだった。

f:id:satoko_szk:20211030211814p:plain

だからこそ、好きな仕事をこれからも続けていくために、
働き方を考えないといけない。


本屋に行って、
『結果を出して定時に帰る時間術』
という本を買ってきて読んだ。

休職明けしばらくは、就業制限がついて残業ができなくなるので、
「残業できない状態でも、きちんと貢献できるように」
と思って読み始めた本だったが、読み進めていくうちに、
(これは就業制限の有無に関わらず、
 ずっと続けていった方がいいワークスタイルだな)
と思い始めた。


この先の人生で何があったとしても、
好きな仕事を続けていくために。

 * * *

そうして、2ヶ月の休職期間を経て、
完治はせずとも小康状態まで持ち直した私は、
6月。意気揚々と復職した。

が。配属先が決まらず、紆余曲折を経た結果、
自宅で再び待機状態となった。

「休職者が復職する時、
 体を壊した職場には復職させない」
といった決まりがあるらしく、私はS課長から
「おそらくK部長のところのプロジェクトに配属になるだろう」
と聞かされていた。
だが、K部長から『待った』が掛かったのだ。

K部長というのは、後に、
健康上の理由や、
育児などの事情で就業制限のついている部下全員を
自分の配下から外に出して、
「このダイバーシティの時代に何をやっているんだ」
と他の幹部社員たちから総ツッコミを受けるも、
「俺だって断腸の想いで外に出したんだ」
と、のたまう人である。

そんな彼が、
休職明けの私を自分のプロジェクトに入れるわけなどなく、
だけど復職可能な部下を待機状態にしておくと
自分の評価に関わるので、
彼なりに必死に私の受け入れ先を探した結果、
「合併先の部署でもいい?」
と、7月下旬、配属先が決まるのを今かと待つ私の元へ電話をかけてきた。

彼の話を聞いた合併先の某部署のトップが、
それなら俺が引き取っていいぞ、と申し出てくれたのだ。


2月の頭に、
同期のIちゃんとYちゃんの話を聞いていなければ、
間違いなく躊躇った話だろう。

だけど二人の話を聞いていた私は、
「あ、いいですよ」
即答した。


こうして、自分が予期していたよりも遙かに早く、
2010年8月。
私は全く未知の、合併先の部署の扉を開ける。

(中編につづく)

次の話→"好き"と"関心"を巡る冒険 第二章 中編 vol.1 - Sato’s Diary
全話リストはコチラ