"好き"と"関心"を巡る冒険 第三章 Spring-1

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2014年6月。
私は社会人になって2社目となる会社の扉を開いた。

初めての転職ではあったけれど、
前職で、全く文化の異なる部署の異動を経験していた私には、
2度目の転職、という感じがして、
さらに、前職で経験した程のカルチャーショックを受けることなく、
3か月くらいで、すんなり溶け込み、
1年後には、「お前、もう10年くらいいる感じがするな」と言われるくらいに馴染んでいた。


最初に配属されたのは、
某公共系システムのリプレース開発のプロジェクトだった。

開発規模に比して、開発期間が超絶タイトだったこともあり、
2014年秋から2015年春まで、朝から深夜、時には明け方まで働き通しで、
私が人生最高の残業時間=236時間/月を叩きだしたのは、このプロジェクトだった。
いわゆる、炎上案件というやつである。
(※労基が入って、その後是正されました)

だけど私は、とても元気だった。

「いやぁ、Satoさんが来てくれて、本当に助かったよ」
と、マネージャーのO島さん、リーダーのO野さんに大歓迎され、
「ロッカールームで寝袋で寝たんですって? 大丈夫?無理しないでね」
と、名前もまだ知らない他部署の人に優しく声を掛けられ、
「俺たちが手伝うから、Satoさんは今日は帰って休め」
と他部署の応援部隊からメッセが送られてきたりして。

なんて良い会社なんだ!
と私はいたく感激していた。

私の過去の炎上案件の記憶といえば、
契約まわりで親会社やお客さんと大揉めに揉め、
先輩から毎日ネチッこく圧をかけられ続け、
リーダーが、ある日突然に大勢のメンバーを引き連れて離脱し、
やがて上司も左遷され、
ぽつねんと残された若手の私と後輩に、
閑散期で毎日定時帰りしている周りの部署の誰一人、声を掛けてくれることもない、
ザ・超孤独
というものだった。

それが、どうだ。

マネージャーのO島さんとリーダーのO野さんは
逃げ出すことなく最後までタフに頑張り続け、
何か相談がある時にはどんなに忙しくても耳を傾けてくれ、
問題が起こった時には、責任の追及ではなく、どうすればいいか、を考え続け、
他部署の人達も気にかけてくれ、最後は応援も入り。

なんて素敵な会社なのだ、と、
この素敵さに気づけるのも、昔苦労したからこそだと、
「『若いうちの苦労は買ってでもしろ』って本当ですね!」
と言いながら、炎上プロジェクトで私はご機嫌に働いていた。

 * * *

プロジェクトのメンバーは、優秀な人が多かった。

開発しているシステムの業務仕様は複雑で、
前職だったら、ほとんどの人は詳細を理解しないままに進むんじゃなかろうか、
と思われるレベルの内容だったけど、
昔からその業務に携わっていたリーダーのO野さんはもちろん、
マネージャーのO島さんも、
育休明けで時短勤務のK藤さんも、
びっくりするスピードで理解していって、設計や実装が進んでいった。

彼らに置いていかれないようにと、
私は一生懸命だった。


(彼らのこの優秀さは、どういう経緯で来ているのだろう?)

一緒に働いていくうちに、私の中に、その問いが生まれた。

雑談などから聞く話だと、
彼らも、前職の多くの同僚たちと、さして変わらず、
たまたまエンジニアになりました、な経歴だった。

(前職の同僚と、彼らの違いはいったい何なんだろう?)

私の疑問は深まった。

「このプロジェクトは、大変なプロジェクトだから、優秀な社員に入ってもらってるんだよ。
 そんな優秀な奴ばかりじゃないよ。できない奴、いっぱいいるよ」

リーダーのO野さんは、そう言った。
だけど、私は、どうも腑に落ちなかった。

プロジェクトが本格稼働していくと、
若手社員も加わってきた。
まだ経験のそれほど高くなさそうな年齢の彼らだったが、
それほど細かい指示やフォローを受けることなく、
各々の仕事を進めていっていた。

能力や得手不得手には、おそらくバラツキはあるのだろう。
だけど、全員、自律的なのだ。

そして何かわからないことがあって、聞きに行くと、
誰のところに行っても、
彼ら自身の言葉で、具体的な回答が返ってくるのだ。


前職の後半に在籍していたハード部署の社員たちも
自律的な社員は多かった。
だけど、あそこは、個々にバラバラにやっているからこその自律さでもあった。

1つのシステムを協力しあいながら納期内に作り上げるという、
統制が必要なプロジェクトでありながら、
個々が自律的に進めていく。
それはいったいどういう土壌において、成り立っているのだろう?

それが、私がこの会社で抱いた最初の関心だった。

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(つづく)


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