"好き"と"関心"を巡る冒険 第三章 Spring-3

前回→"好き"と"関心"を巡る冒険 第三章 Spring-2 - Sato’s Diary
全話リストはコチラ



2015年夏。

炎上プロジェクトもようやくひと段落して、
ひと心地ついた私は、
なぜプロジェクトが炎上ルートを辿ったのか、調べ始めた。


私の目から見て、直接の原因は、
とにもかくにも開発期間の短さに尽きた。

今までの私の経験からすると、ゆうに1年は掛けるのが妥当な規模の開発が、
たった半年の計画で行われていたのだ。

「え?この規模の開発を半年でやるの!?」
と、私は開発当初から内心で思っていたのだが、

郷に入っては郷に従え、と言うし、
なんか優秀な人がいっぱいだし、
もしかして、これなら半年で出来ちゃったりするものなのかな??

と思って、とりあえずは何も言わず、付き合ってみることにしたのだ。

そうして、200時間超えの残業までお付き合いしてみた結果、

うん、やっぱりこれ、半年は無謀だったよね!

という結論となり、なんでこの開発が、
たった半年の強行プランで行われることになったのか、
あれだけの残業に文句言わずに付き合ったのだから、私には知る権利があるだろう、と
自分が入社する以前のメールのやり取りやら、工数の記録やら何やらまでを入手して、調査した。


私たちが開発していたのは公共系システムのリプレース開発だった。
公共系システムのリプレースというのは周期的に行われるものなので、
2014年年末にリプレースシステムを納入する必要が生じることなど、
だいぶ以前からわかっていたはずなのだ。

そして、実際、2年前の開発閑散期に、
マネージャーのO島さんとリーダーのO野さんが技術調査を行って、
「結構な規模の開発になるので、それなりの期間と、それなりのスキルを持った人材をアサインする必要がある。それが叶わないならば、受託するのは厳しい」
という、きわめて真っ当な報告を、きちんと経営層に上げていた。

それに対して、
「O島さんが出来ると思うならやってください」
という、よくわからない返信が社長から返ってきて、
そのまま、しーん…、みたいな状態になって、
それから2年後、担当営業から、
「そろそろ、開発着手してほしいのですが…」
というメールが飛んできて、ドタバタと開発が始まる…、
という経緯だった。


「……え? この空白の2年、何してたんですか?」
経緯を整理し終えた私は、目をぱちくりさせながら、
隣りの席のO野さんに尋ねた。

「普通に他の案件に追われてたんだよ。
 いきなり開発が始まるなんて、いつものことだよ」
つっけんどんにO野さんが答えた。

「だけど、要求していた人員も全然揃わなかったんでしょ?
 何で、『無理です』って断らなかったんですか?」
私が言うと、
「何言ってんの。断れるわけないでしょ」
馬鹿じゃないの、とO野さんが嘲るように言った。

いやいや、これは経営判断の範疇でしょうが。
経営層が経営のジャッジを放棄して、
『O島さんが出来ると思うならやってください』
なんて無責任に返しているのだから、
「じゃあ、できません」ってO島さんも返せばよかったのだ。


同時期に、マネージャーのO島さんが抱えていたもう一つのプロジェクトも炎上したこともあり、社内ではO島さんを責める声があった。
リーダーのO野さんも、プロジェクトを炎上させる常連リーダーらしく、
「どうせ今回もO野のせいだろ」
みたいに言われていた。

だけど中にいた私の目から見て、
2人は間違いなく優秀だった。
どう考えても、開発スケジュールの短さ以外に炎上の原因はなかった。

現に、プロジェクトの作業工数も算出して分析してみたら、
移行チームのリーダーが潰れて
リカバリーに追われたあたりは少し工数は膨らんだけれど、
全体的に開発規模に対して掛かった工数は至極妥当な数字で、
よくもあれだけの炎上プロジェクトで、こんな妥当な数字に収めたものだ、
と感心するレベルだった。


「この間のテクニカルミーティングで、社長に
 『炎上の原因をきちんと分析して報告するように』って言われてたじゃないですか。
 じゃあ、炎上の原因はコレです、経営判断が曖昧なままに、なし崩し的に開発が始まったことが原因ですって報告しましょうよ。
 悔しくないんですか、あんな風にみんなに責められて」

私はO野さんに言い募った。

休日や深夜に及ぶ仕事に他部署の社員たちを応援に巻き込んで、
なんとかプロジェクトは完遂できたが、
そのことでO野さんに白い目を向ける社員たちがいた。

だけど私の言葉を、O野さんは取り合わなかった。

「別にみんな、本当はわかってることだよ。
 ――ていうか、時間かけて何やってんの、それ? 何の工数使ってやってんのさ」
私が納得できない顔でいると、そう言ってきた。

「私の自主調査ですよ」
「は? 自主調査なんて工数、うちの会社にないんですけど?」
「タイムカード切ってやってるんだから、いいでしょ」
「は? うちの会社、サービス残業禁止なんですけど?」

私はO野さんを睨みつけて、
もう知るかっ、と、そっぽを向いた。


私があれだけの残業に文句を言わずに付き合ったのは、
無事終わって良かったね、で、
はい、終わり、にするためじゃない。

ここに来て、良い会社だな、楽しいな、
そう思ったからこそ、
外からあれこれ批評するのではなく、
問題の中に飛び込んで、
きちんと原因を分析して改善していきたいと思ったからだ。


だけど、プロジェクトリーダーのO野さんに
根本的な問題解決に向き合う意志がないならば仕方がない。

納得できない気持ち、悔しさ、悲しさを渦巻かせながら、
私は調査資料を、
自分の端末にしまい込んだ。


(つづく)


次の話→"好き"と"関心"を巡る冒険 第三章 Spring-4 - Sato’s Diary
全話リストはコチラ