"好き"と"関心"を巡る冒険 第二章 あとがき

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あとがきというか、補足というか。

 * * *

自分が出くわした暗いことや、
自分がどこまで沈み込んだかについて、
全て書くかどうかは、やっぱり迷った。

知り合いに引かれたり、
変に心配されたりしたら嫌だな。

そう怖れる気持ちはあった。

だけど、私の好きな言葉に、こんなのがある。
『陰と陽の和するところに成就あり』
世阿弥の言葉だ。

人間は、明るいものを好むし、
私だって、人から元気で明るく強い人間だと思われたい。
弱い人間、暗い人間、可哀想な人間だなんて、思われたくもない。

だけど、この物語は自分のために綴っているのだし、
人間誰にだって、陰の部分はあるのだ。

だから、思い切って、
私のここまでの道を作る欠片たちに潜む、陰の欠片も、
ひとつひとつ丁寧に拾い上げて、磨いて、
並べていった。

心の片隅にしまっておいたあの頃の記憶を、感情を、
今の自分でひとつずつ受け止めていきながら。


そうして、全てを自分の外に出して並べきって、
陰も陽も混ざり合った自分の道を眺めてみたら、
目の前に広がるのは、何ら恥じることのない
力強く誇らしい道で、
それを見て、不思議な満足感を覚えて。

なんだか、8年目にして、
ようやく肩の荷を降ろした気分で、
ひと心地つけたのだ。

 * * *

この物語を書くにあたっての参考資料は、
当時の日記と手帳だ。

それらをめくるまで、
すっかり忘れていたエピソードなどもあった。
けれど、それらを忘れていたのは、
大したことのない話だったからではない。

会社を辞めてからもしばらくは、
この会社であった色々なことについて、
自分の中で整理がつかずに、時折、日記にしたためていた。

けれど、会社を辞めてから1年経った頃の日記に
こう綴られているのを見つけた。

『今、大切なものを疎かにしてしまわないように、
 心の片隅にしまっておこうと思う。
 忘れるのではない。
 いつか、きれいなだけでもなく、暗いだけでもなく、
 全てをありのままに自分の中で消化できた時に、
 その過去がきちんと輝くことを私は知っているから』

私の日記に、最初の会社について綴られていたのは、
この日が最後だった。
そこから先は、新しい会社でのアレコレで、ページは埋まっている。

そんなことを日記に書き留めていたことも、
全く覚えていなかったけれど、
日記のページをめくりながら物語を書き綴り、
最後、この日のページに辿り着いた時、
そのページを書き綴っていた7年前の自分に
きちんと応えられたような気がして、自然と笑みがこぼれた。

 * * *

Aさんについて、今の自分が何を思っているのかは、
正直、自分でもよくわからない。

別にもう、どうでもいいような気もしているし、
10年後でも、20年後でもいいから、
いつかこの物語を読んで、彼が何をしたのかを理解して、
私に向き合いに来てくれるといいな、と思う夜も、たまにある。


ただ、なぜ私が、
自分の得たピースを繋げて、
彼のやったことを瞬時に想像できたかというと、
それは私も彼と同じ発想ができる人間だからだ。
(彼のようなバレたら困る下手なやり方はしないけど)

幸いにも、今のところは、
人を陥れることに自分の力を使うことなくきているけれど、
悲しみ、怒り、嫉妬、孤独、不安…
そんな感情に支配されて、
何も止めてくれるもののなかった時に、
自分の力を、彼と同じような形で使うことがないとは言い切れない。

もしも、自分の力をそんな風にして使って、
誰かを傷つけてしまった時には、
私は、私にきちんと寄り添ってくれる人たちがいるといいなと思う。

自分のしたことを、隠されるのではなく、
それをするに至ってしまった自分の気持ちに寄り添ってもらって、
そうして、傷つけてしまった相手に、
きちんと向き合う勇気を持てるようになるまで、
暖かく寄り添ってほしいと思うのだ。


裁かれるのではなく、
許すことを強要されるのでもなく、
そんな、
"許される機会"のある社会であるといいな、
と今の私は思っている。

 * * *

とはいえ、K部長に関しては、8年前も今も変わらず、
「こんな奴、どっかで野垂れ死んでしまえばいいのに」
と思っている。
(でもナルシストな彼はきっと、何があっても、
 『周りに苦労させられて大変な俺』
 と思い続けて、一番しぶとく生き続けるんだろうな)

人生の中で少しくらいは、
絶対に許せない人間、心の底から嫌悪する人間、というのも、
いたっていいと思うのだ。

だけど、そんな彼がいたからこそ、第二章の物語が生まれ、
人生における大きな気づきを得たのも、
これまた事実である。

どう考えても部長の器に思えないK部長が
部長になれたことと私の間に、因果関係があったことに、
第一章を書いている途中で気がついた。

昔、彼が私に得意気に言ったことがある。
「出世できるかどうかって、実力だけじゃなくて、
 そのポストに空きが出るかっていう運もあるからさ」

彼が部長になれたのは、
会社合併直前で、候補となる幹部社員が他にいなかった
人材不足の時分に、そのポストが空いたからだ。
そして、なぜ、そのポストが空いたかというと、
元々そのポストにいたJ部長が降格されたからである。
そして、なぜJ部長が降格されたかというと、
第一章に書いた通り、私に長野のプロジェクトを
最後までやらせてくれたためである。

私が長野のプロジェクトに出会って無我夢中で取り組んでいたからこそ、
J部長は私に長野のプロジェクトを最後までやらせることを選び、
それがK部長が部長に昇進して私の上司となることに繋がり、
彼が上司だったからこそ、私は休職明けに保守センターに行くことになり、
そこで自律的な組織文化に触れ、成長の階段を駆け上がり、
そしてやっぱりK部長が上司だったからこそ、
最後、新たな場所へ向かう流れが生まれたのだ。

本当に、何がどう繋がって、
誰の人生に影響を及ぼすのか、及ぼさないのか、
誰にもわからない。


この物語は、"好き"と"関心"の正体を探る物語だ。

まだ、その正体は見つけられていない。

けれど、ここまでの物語を綴る中で、
自分の出会う様々な人々や事柄を、私の中の"好き"と"関心"が結んで、
一筋の道を作り上げてきていることが、見えてきた。

嬉しかったことも、苦しかったことも、
誰かにしてもらったことも、されたことも、
幸せを感じたことも、誰かを憎んだことも、
自分の内なる"好き"と"関心"で結びつけた時、
それらは価値ある欠片となって、
自分の誇らしい人生の道を作り上げていくのだ。


(あとがき・終)



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