"好き"と"関心"を巡る冒険 第二章 中編 vol.1

(前回のあらすじ)
2か月+αの休職から明けた私は、紆余曲折の結果、
合併先の部署へ配属されることとなった。

前回→"好き"と"関心"を巡る冒険 第二章 前編 vol.7 - Sato’s Diary
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私が配属されることになったのは、
顧客に納入したハードの運用保守を一手に引き受けて
社内全体の業務効率化を図るために、
1年前に設立されたばかりの保守センターだった。

機密情報を扱っている関係で、
社員がカードキーを使って入る本社フロアのさらに奥に、
部署の関係者のみが入室できる鍵付きのドアがあって、
そのドアを開けた先に、そのセンターはあった。

2010年8月。
本社の打合せスペースで、
K部長を交えて、その部署のトップであるYさんと初めて会った。

「部署の中で使用するシステムを内製しているけど、手が足りていないようだから、
 ソフトウェア開発ができるんだったら、そのチームにちょうどいいだろう。
 社内開発で残業もないし」

そうYさんは言い、
私は彼に連れられて、その部署の扉を初めてくぐった。

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入った瞬間、明らかに空気の違うことがわかる。

仕事の会話や雑談の声が行き交っていて、
活気があって、何だか明るかったのだ。

扉の有無を除いて、部屋の構造は、
机の配置も、蛍光灯の数も、
私の元いた部署と何も変わらなかったけれど、
空気感が明らかに違った。


Yさんは、私が配属されるチームのメンバーであるK橋さんに私を引き合わせると、
さっさっと自分の席に戻っていった。

K橋さんは自己紹介を終えると、
「ちょっと今、準備しているんで、待っててくださいね」
と言ってから、
「まったく、いつもいきなりなんだから困るよなぁ…」
と、ひとりごちながら作業に戻った。

あとになってわかることだけれど、
この部署のボス達は、ある日いきなり、頼んでもないのに、
どこからか人を連れてきては、
「あとはお前らに任すから、適当にうまく使っとけ」
と言って、勝手に置いていくのだ。

後に私も何度かそれをやられて、振り回されることになるのだけれど、
私自身がそんな風にして、連れてこられた人間のひとりだったのだ。

Yさんにとって、この時の私は、
道端で拾った、捨て猫か捨て犬のようなものだったのかもしれない。


その部署の中に、見知った顔は全くなかった。

入社以来、どこに行っても、少なからず知り合いのいる状況で
7年間過ごしてきた私は、
まるで、新入社員か転校生になった気分で、ちょっと緊張していたが、
律儀なK橋さんが、人が通りかかるたびに、
私のことを紹介してくれ、
そしてそのたびに、私を紹介された人達は、
しばらく立ち止まっては私と雑談を交わしてくれた。

それまで、雑談というのは、仕事の合間の軽いコーヒーブレイクのようなもので、
あまり長く話し続けていると、上の人から咎められるものだった私は、
(みんな、こんなに雑談していていいの…?)
不安になるくらいだった。
しかし、そっと周りを伺ってみても、
誰も咎めるような雰囲気はなく、
むしろそれが当たり前、という感じに通り過ぎていく。


「Satoさん、今夜時間あります?」
定時近くになると、K橋さんがそう声を掛けてきて、
はい、と答えると、
「じゃあ、歓迎会やりましょう」
と言って、部署の人に声を掛け始めた。
わらわらと人が集まり、異動した当日、
そのまま近くの居酒屋で歓迎会となった。

これまで、部署の歓迎会といえば、

新しい人が来る→部課長がメンバーに紹介
 →誰かが幹事に任命されて歓迎会の日程調整→歓迎会

という流れが当たり前だった私は、またしてもカルチャーショックを受ける。


「前はどこの部署にいたんですか? へぇ、○○。
 そっちの方には知り合いいないなぁ…」
歓迎会の席で、以前の部署を聞かれて答えると、
そんな風に返ってきた。

私が『合併に伴って一緒になった会社側の人間』であることを
特に気にしている感じはなかった。
あくまで、『たくさんある部署やプロジェクトの中の1つから来た人間』と
捉えている様子だった。

『あの人たちは、Satoちゃんの部署のことなんて、全く気にしてないよ。
 Satoちゃんの部署の人達が一方的に壁を感じているだけだよ』
以前に聞いた、同期のIちゃんとYちゃんの声が蘇る。


こうして、
初日だけでも充分に文化の違いを実感した私だが、
ここからさらに多くの、文化の違いや勝手の違いに戸惑い、
振り回されながらも、
成長していく日々が始まる。のだ。

(つづく)

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