"好き"と"関心"を巡る冒険 第二章 前編 vol.1

<前回のあらすじ>

転職活動の中で、
「自分の道は、欠片を集めて作っていくものなのだ」
と気づいた私は、会社への残留を決めて、
この会社で欠片を集めながら90周走ることを決意する。

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時を少し遡ること2007年頭、冬。
社長から全社員に向けて、メールが送られてきた。

『親会社の一部署と、我が社が合併することになった。
 主体は我が社で、仕事の内容も大きく変わらない』
そういう内容のメールだった。

その3年前に、
自社の主軸の部署が親会社に吸収されて、
社員の半分近くが親会社に転籍になる、
ということがあったので、
親会社とくっついたり、離れたりすることに関しては、
それほどの驚きはなく、
この時はどちらかというと、新社名のダサさに、
「この映画みたいな社名、本気!?
 電話を受け取る時、この社名を名乗るの!?」
てなことを思っていた。

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そして、その半年後、
正式に合併して、新会社となり、
キックオフパーティをやるから集まれ、
ということで、定時後、
会社のビルから徒歩15分の親会社本社の1階の大会議場に、
隣りの部署の先輩や、その後輩たちと一緒に行った。

立食パーティ形式の会場には、人が溢れ返り、
あちこちで数人単位のグループが固まって談笑していたが、
見知った顔はほとんどなく、
私たちは、壁際で所在なげに佇んでいた。

やがて、お偉いさんらしき人が壇上に上がって、
これからの仕事のことなど色々話していたが、
どの話も、私たちが所属していた会社の仕事とは関係のない話だった。

余興タイムとなり、
またまた見知らぬ社員が壇上に上がって、
「えー、実は極秘で、U常務のお宅を訪問して、
 奥様にU常務のことを伺ってきました」
と言って、場内に、どっと笑いが沸き起こる。
が、
(U常務・・・。誰それ?)
な私たちは、プロジェクターから映し出される女性の映像を、
ただシラケた面持ちで眺めていた。

そして最後。
「では、締めはKさん、お願いします!」
と司会に呼ばれて、
スキンヘッドの男性を先頭にした数名の男性陣が、
拍手喝采のもとに登場して壇上に上がり、
「俺たちはやるぞ!」
「えいえいおー!」
「さぁ、みんなも一緒に! えいえいおー!」
「えいえいおー!!!」

場内が「えいえいおー!」コールに包まれて、
キックオフは締めくくられた。

私たちは、無言で壁にもたれて、その様子を見守っていた。

(・・・・・無理)
私は、ただただ、ドン引いていた。


 * * *

その後、私たちの日々の仕事は特に変わらず、
合併先の部署の人と関わることは全くなかった。

だけど、時折、上司たちが幹部会議から戻ってくると、
「あいつらは何もわかってない。話が通じない」
そんなことを言っているのを、よく耳にするようになった。

『合併の主体は自分たちの会社』
そう聞かされていたが、
実際に経営層に名を連ねていたのは、親会社側の社員たちだった。

合併先の部署は、ハードを扱うのが主な業務で、
私たちがいた会社は、ソフトウェア開発が主な業務だった。
ソフトウェア開発は売り上げの大半を人件費が占め、
ハードを売るのに比べて、利潤が低かった。

「なんで、そんな利益率の低い仕事をしているのか。
 ソフトウェア開発は畳んで、ハードに絞った方がいいのではないか」
そんなことを言って、親会社出身の経営層たちは、
私たちの上司たちに詰め寄っているのだという。


やがて、私たちの上にいた人たちが、
どんどんと端に追いやられていった。

元の会社の上層部に、私はさして思い入れはなかったけれど、
S統括部長のことだけは、慕っていた。

S統括部長は、
休日は会社の野球部や、少年野球チームの監督をしていて、
野球部の合宿では、初心者の私に100本ノックをかますような、
スポ根系の面倒見の良い人だった。

私が社会人2~5年目の時に奮闘していたプロジェクトが炎上していた時に
プロジェクトの火消し役としてやって来て、
私たちの開発しているシステムが
従来のシステムとは全く違うことを理解して、
そのことを根気よく、上層部に説明してくれた。
私に、何度か励ましの言葉もかけてくれた。

そういう人だったから、
多くの社員から慕われていた。

だけど、経緯はわからないけれど、
いつの間にかS統括部長も、開発の主ラインから外れて、
裏の事務方の仕事をしていた。
やがて役職定年を迎えると、再雇用制度を利用することなく、
そのまま退職した。

 * * *

2010年の年始、社長から全社員へ年始挨拶のメールが送られてきた。
『今年は合併から3年が経つ年なので、
 合併のシナジー効果を上げるためにも、
 部署の融合を積極的に図っていこうと考えています』
そんなことが書かれていた。

それを読んで、
「ついに乗っ取りに来ましたねー」
そんな言葉を、その頃いた常駐先の職場で、
年輩社員のHさんやYさんと交わしたのを、よく覚えている。


2007年から2010年の初めまで、
私に見えていたのは、そういう景色だった。

(つづく)


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