"好き"と"関心"を巡る冒険 第二章 - 序1 -

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2007年。社会人5年目の秋。

2年10か月続いた意義深いプロジェクトを終えて、
出張先の長野から東京へ戻ってきた私は、
社会人2年目の秋に、自分の中で決めていた"時"が来たことを自覚していた。

“3年間は転職するかどうかを保留にして、
 代わりに日々想うことを書き留めて、3年後の判断材料にする。
 そして3年後に下した決断を実行する”

この会社で働き続けるのかどうか、
仮に転職するとして、システムエンジニアを続けるのかどうか。

約3年に渡ったプロジェクトの中で、
システムエンジニアとしての楽しさや苦しさ、悔しさをたくさん味わい、
自分の中にたくさんの課題も生まれ、
社会人2年目の私には出せなかった答えが、
社会人5年目の私の中では、はっきりと出ていた。

システムエンジニアは続ける。だけど、この会社じゃない」


答えははっきり出ていたけれど、
じゃあ実際に、どのタイミングで動こうか。
あと、もう1つくらいはプロジェクトを経験してからにしようか…。

いざ辞めるとなると、
何のかんので楽しかった思い出だとか、
優しい人との思い出だとかが思い起こされて、
なんとも一歩を踏み出せなくなる。

そんな状態で4か月ほど足踏みしている間に、
私と最後までプロジェクトをやりきって一緒に長野から帰ってきたI君が
一足先に転職した。


どうにも気持ちが定まり切らず、
かといって自分の大事な決定を他人に委ねたくない私は、
自分でタロットカードを切って占った。
出た結果は、
「もう動く時は来ている」
というものだった。

(きっと辞める時というのは、こんな風に微妙に揺れながらも、
 動いていくものなのだろう)

そう思い、私は転職活動を始めた。


転職活動の中で、私が会社選びの基準にしていたのは、
従業員を大切にしているかどうか、なども
もちろん気になったが、一番は、
自分が経験した、あの2年10か月のプロジェクトを、
きちんとやり遂げられる力を持った会社かどうか、だった。

技術力があること。
顧客からの直請けであること。

それを重視していた。

技術力の低さと、
親会社を介してしか、顧客と契約できないこと。

それが、あのプロジェクトの大きな問題要因だと考えていたからだ。


「この会社なら、あのプロジェクトを、きちんと全うできるのかもしれない」
そう思ったのは、面接2社目の会社だった。

社員20人ほどの小さな会社だったが、
社長含めて社員は、ザ・技術者という感じの会社で、
直請け案件もあるとのことだった。
面接で話しながら、
(この会社なら、きっと、あのプロジェクトをうまくやれるに違いない)
そう思えた。

だけど。
その会社の人達と会話を続けていくうちに、
何かが、自分の中で引っかかった。


(自分はいったい何が引っかかっているのだろう??)

面接を終えて立ち寄った駅前のコーヒーショップで、
転職活動用に用意したノートに、
つらつらと自分の感じていることを走り書きしながら考えた。

『例えば、ああいう会社でなら、あのシステムをもう一度、
 ちゃんとした形で開発できるんだろうな、て思った』
ノートに走り書く。

『でも、私が身を置きたいのは、
 果たして、バリバリの開発集団の中なのか?』
そう書いて、
私が一緒に働きたいのは――、と頭に浮かんだのは、
まず、2個下の後輩のTさんの顔だった。

新人研修を終えてすぐに大変なプロジェクトに配属されたにも関わらず、
ほんわかした雰囲気で、
殺伐としたプロジェクトの雰囲気を和ませてくれていたTさんの顔。

彼女が、バリバリの開発集団の会社に入ることはまずないだろう。

その次に浮かんだのが、同期の面々の顔だった。

仕事よりも、日頃のささやかなことに楽しさを見出す彼女らに、
私はどこか隔たりを感じつつも、
先輩たちから卒論をボロクソに言われて傷ついた大学4年時代を経て
社会人になった私は、
「そんなバリバリ仕事しなくてもいいじゃない。色々楽しいことあるじゃん」
そんな彼女らに、確かに癒されて、
そういう楽しみ方もあるんだなぁ、と思わされたりもしていたのだ。

彼女らが、バリバリの開発集団の会社に入ることも、やっぱりないだろう。


(あぁ、そうだよね。)

ノートに勢いよくペンを走らせる。
『だってさ、バリバリの開発集団が、
 素晴らしいシステムを作れたって、面白くないじゃん。
 烏合の衆みたいのが集まって、面白いものを作っちゃう方が、
 断然面白いじゃん』

あの悔しかったプロジェクトの面白さは、
そこに集っていた人たちが、
バリバリの開発集団ではなかったからこその面白さもやっぱりあるのだ。

『システムの知識とか、そういうのは私が全部引き受けたっていい。
 縁の下は、私が引き受ける。
 私は、人を生かしたい。みんなを笑わせたい』

そこまで書いて、私は気づいた。
私が笑顔にしたい相手には、お客さんだけでなく、
自分の会社の人達も含まれているのだということに。

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だけど、どうやって?

親会社に文句を言いながらも、都合よくそれを隠れ蓑にして。
仕事に真正面から向き合うよりも、愚痴を言い合って馴れ合って。
頑張る人にだけ重荷を背負わせて、その人が疲れて辞めていくときにも、
ただ仕方ないと見送って。

そんな会社の中で、どうやって?

自分の中にある想いに気づいた私は、
だけれども、
その想いを実現する方法など全く見当もつかず、
コーヒーショップの中で、ただ茫然とした。

(つづく)


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