"好き"と"関心"を巡る冒険 第二章 前編 vol.4

<前回のあらすじ>
ある日いきなり合併先の部署に引き抜かれた
プロジェクトメンバーを取り返すために動いていった結果、
自分が得ていた情報が、上司のフィルターのかかったものであったことに気づく。
そんな私の元へ、一通のメールが届く。

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それは、同期のIちゃんからのメールだった。

私の掲示板への書き込みを見て、
『何だか大変そうだけど、大丈夫?
 私で良ければ、話を聞くよ』
そう、メールをくれたのだった。

彼女とは入社1,2年目の頃、同じプロジェクトに配属されて、
仕事帰りによく2人で飲みに行っては、
仕事の悩みや愚痴を語り合った仲だった。

その後、出産・育休を経た彼女は、
今は管理部で働いていた。


自分の得ていた情報が
部長や課長のフィルターのかかった情報だったことに気づいた私は、
彼女からのタイムリーなメールに、
『ぜひ話を聞いてほしい。
 自分の得ていた情報が偏った情報だったのかも、と思えて来たので、
 管理部にいるIちゃんからの情報も教えてほしい』
そう返信した。

すぐに返事が返ってきた。
『わかった。そういうことなら、Yちゃんも誘うから、
 3人で土曜にランチしながら話そう』

Yちゃんも同じく同期で、元々は私たちと同じくエンジニアとして配属されていたが、
彼女の希望で、少し前に経理部に異動していた。


そうして2月上旬の土曜日、私たちは久しぶりに会い、
ランチを食べながら、ことの経緯を彼女らに一通り話した。
私の話にずっと耳を傾けてくれていた彼女らは、私が話し終えたところで、
「あのね…。私たちの目には、
 私たちの元上司たちが一方的に殻に閉じこもっているように見えているよ。
 残念だけど」
そう言った。

間接部門に所属する彼女らは、
経営層を含む合併先の社員たちとも、頻繁に接していた。

「あの人たちは、『乗っ取ろう』とか、まったく考えてないよ。
 というか、そもそもSatoちゃんたちのいる部署のことを全く気にしていない」
そう言った。

「あの人たち、すごく頭良いよ。視座がすごく高くて、
 そんなことまで考えてるんだ!って、すごく勉強になる」

彼女らの言葉が、私はにわかには信じられなかった。

「えー? だって、親会社の人たちって、仕事しないじゃん。
 会議のセッティングと、議事録書くのが自分たちの仕事だと
 思いこんでいる人たちじゃん」
私が言うと、Iちゃんが、
「たしかに私たちが昔一緒に仕事していた人たちはそうだったけど、
 あの人たちは違うよ。
 親会社っていっても、たくさん部署があるから、部署が違うと全然違うんだよ」
そう言った。

「でも、人事部長のUさん、毎日、私のところのHさんに長電話かけてきて、
 迷惑してるんだけど。
 あの人、仕事できるの? 暇なんじゃないの?」
疑わしげにそう返すと、
「あぁ、Uさんは、ちょっと困った人だから」
ねぇ…? と二人は顔を見合わせて笑う。


そして、経営層や合併先の部署の人たちについての話を
二人は色々と楽しげに語った後、
「ねぇ、Satoちゃん。一度、あっちの部署に異動してみなよ。
 合併先の部署の人たちは、本当に優秀な人たちだから、
 すごく良い刺激になると思うよ」
思いもかけぬ提案をされた。

「いや、でも私がやりたいのは、
 ハードじゃなくてソフトウェア開発の仕事だし…」
突然の提案に、そう返す。

「だったら、籍は元の部署に残して、戻ってくること前提で、
 ジョブローテーションの一環として、
 あっちのプロジェクトの仕事を経験しに行くっていうのはどう?」

合併後の私たちの会社では、
籍は所属部署に置いて、プロジェクトは各部署から人員を集う形で運営する、
という方式を試行中だった。

普段、そんなに仕事仕事なタイプではなかったはずの二人からの猛プッシュに、
私はたじろぎつつも、
少しずつ、合併先の部署に対して興味を抱いていった。

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「まぁ確かに、システムを開発するにあたって
 ハードの知識を持っているに越したことはないから…。
 今の仕事を終えて、もう1つくらいプロジェクトをやったら、
 ジョブローテーション希望に書いてみてもいいかもね」
「うん、ぜひぜひ、考えてみて!」

そんな言葉を交わして、
私の相談に付き合ってくれたことにお礼を言って、二人と別れた。


帰路につきながら、
今日、彼女たちから聞いた話について私は考える。

彼女らの話を丸ごと信じたわけではない。
彼女らの目に、ちょっと色合いの異なる人たちが新鮮に見えて、
たまたま大きく映って見えているだけかもしれない。

だけど、私が今回のAさん異動の件を通して気づいた、
「自分が上司のフィルターを通して見ていた景色と、
 実際の景色は異なるのでは」
ということは、間違いなさそうだ。

それならやっぱり、自分の目で確かめに行くのがいいだろう。

(でも、一時的とはいえ、ハードの部署へ移ったら、
 約束の実現は遠のくかもしれない)
1年半前に長野でお客さんと交わした約束を思う。

けれども私は、単になぁなぁな関係で、
もう一度彼らと一緒にやりたいのではない。
色々なものを吸収して、成長した自分になった上で、
彼らの前にもう一度立ちたいのだ。

――だったら、心のままに


そう心を決めるも、さすがにこの時の私は、
まさか、今のプロジェクトを終えたその次に、
合併先の部署に行くことになるとは、露とも思ってもいなかった。

(つづく)


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