"好き"と"関心"を巡る冒険 第二章 中編 vol.8

(前回のあらすじ)
ソフトウェア部署とハード部署の常識の違いに驚きながらも、
「結局、上の色に下は染まるだけなんじゃなかろうか?」
という仮説を立てたコミュニケーションWGメンバーは、
今度はソフトウェア部署の幹部社員をゲストに招聘して、
なぜ幹部社員たちがここまで異なるのかを確認することにする。

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S課長は、毎年地元のお祭りを取り仕切っているような人なのだが、
威勢のいいハード部署の幹部社員のK池さんと並ぶと、
何とも自信なげで大人しげな雰囲気が醸し出された。

K池さんの勢いに押され気味だった、ソフトウェア部署出身の私とO村さんは、
「どうです!? 私たちにとっての幹部社員と言ったら、こういう人ですよ!」
と、謎のドヤ顔で臨む。


人の生き様に歴史あり、ということで、
まずはS課長から、私たちの出身会社の歴史を聞く。

私が入社2年目の頃に、柱だった事業がごそっと親会社に吸収されて、
同期を含む社員の半数近くが親会社に転籍となったことがあったのだが、
それ以前にも、そういうことが何度かあったらしい。

「そのたびに残された人間で、何とかやっていこうと頑張るんだけど、
 やっと息を吹き返したと思ったら、また持って行かれて…みたいな繰り返しで」
とつとつとS課長は語った。

私の目から見て、
ハード部署とソフトウェア部署の幹部社員の視座の高さの違いは
明らかではあったけれど、
ソフトウェア部署の幹部社員たちが、
長い目で会社のことを考える余裕がなかったのも事実なのだ。
目先を生き延びることで精一杯だったのだ。


ちなみにこの頃には、私は会社合併の実情を理解していた。

私たちの合併相手である親会社のハード部署が、
ここ数年のうちに大規模なシステム更改案件を複数抱えており、
それをこなすためには、スピーディな決裁が必要だけど、
大所帯の親会社だとスピード感に欠ける。
「じゃあ、承認決済を早めるために、コンパクトな子会社として切り出しちゃおう!」
となったのだけど、完全新規に会社を作るよりも
既に存在する会社と合併する方が法的に簡単らしく、
ちょうど子会社の中に、柱事業がなくなって、ひーひー言っている会社があったので、
「おぉ、こことくっつけば、ちょうどいいぞ」となって、合併に至ったのだ。

合併当時、私たちは当時の社長から、
「合併の主体は我が社です」
とメールをもらったのだけれど、まぁ嘘ではない。
私たちの会社の箱が欲されたのだから。

 * * *

「会社合併のキックオフの時、具体的には覚えてないけど、
 なんか悲しいことを言われたことは覚えてるんだよなぁ…」
S課長がつぶやく。

「あぁ、私たち側の仕事の話、まったくなかったですしね。
 知らない常務のお宅訪問のビデオが流されたり、変な掛け声で締められたり。
 アウェー感、半端なかったですよね」
私が合いの手を入れると、

「あれは、出向することに不安や不満を持ってる社員が結構いるから、
 思いっきり楽しい雰囲気にしてくれってU常務に頼まれて、
 俺がんばって企画したんだよ」
キックオフの締めの挨拶で、えいえいおーをしていたK池さんが言う。


キックオフの時に、あれを見て、
(やばい、この人達、思いっきり体育会系だ…)
と壁際でドン引いていた私だが、
異動してみて、彼らが思っていたような体育会系ではないことはわかっていた。

なるほど、そういう背景があったのか。


「私たちの方では、完全にドン引きでしたよー」
私やO村さんは笑う。

結局、互いの背景、文脈を理解していないと、
笑いも笑いにはならないのだ。

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 * * *

S課長の話を聞き終えて、
じゃあ、ソフトウェア部署の一般社員の目に、上の方がどう見えているのか、
という話に移っていった。

「俺たちの上の人達が追いやられていってるように、俺たちには見えてますよ」
O村さんが言う。

「『ソフトウェア開発は割に合わないから、ハードに絞れ』って
 経営層が言ってるって、私も聞きましたよ」
私も言う。

「頭の固い年寄りたちはそう思ってるけど、現場にいる幹部社員たちは、
 『ハードだけじゃこの先駄目だろう、ソフトウェアとのシナジー効果を出せないか』って考えてますよ」
とK池さん。

へー!? と私たちは驚く。


そうこう話していくうちに、経営層との距離感が、
ハード部署の幹部社員と、ソフトウェア部署の幹部社員で異なるよね、
という話にもなる。

まとめると、こうだ。

  • 経営層
    • ソフトウェア事業にあまり興味関心がない。
  • ハード部署の幹部社員
    • 経営層とは元々、ただの上司と部下の関係。距離が近い。言いたいこと言える。
    • ソフトウェア事業に興味関心ある
  • ソフトウェア部署の幹部社員
    • 経営層と距離がある。
    • ソフトウェア事業に無理解な経営層から、自分たちを守ろうと閉じこもっている。
  • 一般社員
    • 上司の色に染まる


「じゃあこれ、幹部社員間の壁がなくなって仲良くなってくれたら、
 全部解決なんじゃない?」
WGメンバー全員がうなずく。

「どうしたら幹部社員同士は仲良くなれますか?」
私はK池さんとS課長に尋ねる。

「きっかけがないからなぁ…」
とS課長が言うと、
「そんなの、『お前ら仲良くなれ!』って経営層たちが命令して
 ちょっと機会を設けてくれれば、あとは俺たちで勝手にやっていきますよ」
とK池さんが言う。


そろそろ、経営層にWGからの中間施策を提案する時期だった。

「よしっ、じゃあ、それを施策として提案しましょう!」

こうして、私たちは意気揚々と、
『ハードとソフトウェアの幹部社員が仲良くなるように、経営層が取り持って!』
という提案をするべく、プレゼン資料を作り始めた。

(つづく)

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