"好き"と"関心"を巡る冒険 第二章 中編 vol.4

(前回のあらすじ)
異動先のハードの部署が、全社的な活動に積極的な風土でもあったことから、
私はES委員会に入り、活動を始める。

前回→"好き"と"関心"を巡る冒険 第二章 中編 vol.3 - Sato’s Diary
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ES委員会は、
コンサルによるファシリテーションの元に、
常務、幹部社員、一般社員がそれぞれの立ち位置からの意見を述べ合う会だった。

私は、これが面白くて楽しくて仕方がなかった。
なぜなら、今まで上司に会社に対する不満やもやもやをぶつけても、
「会社ってそういうものだから」
という答えしか返ってこなかったのに、
ここでは自分の思っていることを率直に投げつけると、
その全てに対してボールが返されてくるのだ。


「『ESやります。ご意見募集します』って言われても、
 流行り言葉に乗っかてるんだろうなぁ、くらいにしか思わなかったですよ」
と率直な感想を述べれば、
「いやいや俺は、こんな想いや考えで…!」
とU常務が想いや考えを語り、

「全社会って、参加しても
 『自分たちの目の前の仕事とは関係ないことが話されてるなー』
 って思いながら見てますよ。あれって、私たちが参加する意味あるんですか?」
と自分にとって至極当然な感覚を言えば、U常務が絶句するのを見て、
(あれ? 私たちがそう感じてること、気づいてなかったの??)
と、自分に見えているものが必ずしも絶対的なものではなかったのだ、
という気づきがあったり。

自分がそれまで
「形式的・形骸的にやっているだけなんだろうな」
と決めつけていたことが
実はその奥にちゃんとした想いのあるものだったことがわかっていくのだ。


四半期に一度開催される全社会で、経営層が発表するスライドのレビューも
このES委員会の中でやっていた。

「なんか、ただ、ふーーん、って感じしかしなかったんですけど…」
スライドを一通り見終えて感想を述べると、
「いやいや、こういうことを俺は伝えたいんだ」
と常務が言い、
「え。そんなの全然伝わってこなかったですよ!?」
っていうか、そもそも全社会で発表される資料に、
そんな想いとか込められていたの!?
と驚く。

「『結局これ、俺たちのところに仕事で降ってくるだけだろ?
  経営層は言うだけが仕事だからいいよなぁ…』って思いますね」
と、さらに横から幹部社員が感想を述べる。
それを聞いて私たち社員は手を叩いて笑い出す。

「俺はこれを一生懸命考えたんだぞ!
 それをそんな風に笑うなんて、君たち、ちょっとひどいぞ!」
とU常務がちょっと怒り出し、
「まぁまぁUさん、社員からの目線ってこういうものですから」
とコンサルのM川さんがとりなしたところで、
じゃあ、彼の想いや考えを社員にきちんと伝えるにはどうすればいいのか、
ていうのをみんなで考える。

 * * *

今、あの時間を懐かしく思い出して、
あぁ、ここにも私の"好き"があったなぁ…と思う。

私は、誰かの想いのこもったものが好きなのだ。
そして、その想いを受け取った人々が、
けらけらと笑いながらも真剣に、
その想いをさらにその次の誰かに届けようと、
それぞれの立ち位置で、一緒に考えていく時間が好きなのだ。

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 * * *

そんな時間を過ごすうちに、やがて、
自分の中にあった、上の人間に対する
「現場のことなんて、どうせわかってないんでしょ。
 数字だけ見て物事を判断してるに過ぎないんでしょ」
という懐疑的な思いは拭い去られていき、
(なんだ、それぞれの立ち位置でそれぞれに真剣に考えていたんだ)
ということがわかっていき、
(じゃあ、もう文句ばかりを言うのではなく、自分も動かないとね)
そういう気持ちになった頃。


2010年12月。
「ソフトウェアの部署とハードの部署の壁問題に本格的に取り組むために
 コミュニケーションWGを立ち上げようと思うのだけど、
 誰かWGのリーダーに立候補する人いない?」
そうコンサルのM川さんがESメンバーに尋ねたとき、
はいっ、とまっすぐに手を挙げた。

そこにいたESメンバーの中で、私は一番のぺーぺーだった。
私が手を挙げるとは思っていなかったらしいM川さんは
「いやいやSatoちゃん、これはそういう簡単なものじゃないのよ…」
諭すように言った。

わかっている。
両方の文化の違いも、壁のことも、充分にわかっている。
そして、それがわかっていて、
かつソフトウェアの部署とハードの部署の両方に所属している人間は、
私だけだ。
そして私は、壁を壊したくて、そのために両方の部署に所属しているのだ。

この会社の中で、そんな人間は私だけだ。
だからこれは、私の仕事だ。

「わかってます。でも、やります。これは私が適任です」
はっきりと言い切った。

(つづく)

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