"好き"と"関心"を巡る冒険 第二章 中編 vol.3

(前回までのあらすじ)
異動先のハードの部署の風土を気に入った私は、
それをソフトウェアの部署に流すために、組織間の壁を壊すことを決意する。

前回→"好き"と"関心"を巡る冒険 第二章 中編 vol.2 - Sato’s Diary
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新しい部署に異動して2か月が経った頃。

「今度、ES委員会でメンバー募集するんだけど、Satoちゃん、どう?興味ない?
 Satoちゃんって、会社を良くしたいっていう意気込みあるし」
ある日の昼休み、経理部に所属している同期のYちゃんにそう誘われた。

ハードの部署へ異動し、本社勤務になった私は、
間接部門にいる同期のIちゃんやYちゃんと週に一回、
一緒にランチをするようになっていた。


ES委員会とは、アレだ。
私が、自分のプロジェクトのメンバーを取り返そうと、
喧嘩腰で書き込んだ掲示板を運営している組織だ。
今、私がハードの部署にいるきっかけともいえる。

以前に休日に2人に色々話を聞いてもらったときに、
ES委員会の活動について、彼女らから少しだけ話を聞いていた。

なんでも、定年の近いU常務が、自分の会社員人生最後の仕事として、
「最後は従業員を幸せにしよう」
という志を抱いて、従業員満足度向上活動(ES)を始めたそうなのだが。


まずは従業員の意見を聞いてみよう、
と意見募集の掲示板も設置してみたが
ほとんど誰も書き込みをせず。

じゃあ、アンケート形式で聞いてみよう、と
アンケートを取ってみたところ、
「休憩スペースを充実させてほしい」
という意見があったので、
休憩スペースに、立派なマッサージチェアやゲーム機を置いてみたら、
「上司の目が気になるから、就業時間中にゲームしたり、
 マッサージチェアを使ったりなんてできない」
という意見が出て、
それなら自分が率先して…と、ゲームしたり、マッサージチェアを使ってみたら、
「常務が就業時間中にゲームで遊ぶとはいかがなものか」
と今度は苦情が来て。


そういったことを経るうちに、
「こういうやり方では駄目なんだろうな…」
と考えるに至り、じゃあ専門家に入ってもらおう、ということで、
現在は、コンサルを入れて根本的なところから取り組んでいるらしい。


『コンサル=高額な金額で理想論のアドバイスだけして、
       結果には責任を負わないで去って行く人』

というイメージが何となく私にはあったのだけれど、
「私もそういうイメージだったんだけど、あの人たちすごく優秀で、
 プロってこうなんだ!ってすごく学ばされるよ」
とYちゃんは言った。

それで、これまではU常務と彼の部下が事務局として活動していたが、
これから本格的にES活動を推進していくために、
現場の社員に参加してもらおう、という話が進んでいて、
もうすぐ掲示板に有志を募るお知らせを掲示する予定とのことだった。


Yちゃんの話に惹かれるものはあったので、
参加できそうなら参加するね、と答えた。

「うん、ぜひぜひ。
 ハードの部署は、こういう活動に対して前向きだから、
 出たいですって言えば参加できると思うよー」
とYちゃんは言った。

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私は、これまで、そういう社内の委員会活動に参加したことはなく、
元いたソフトウェアの部署では、

  • そういう活動に参加するのは基本的に間接部門の人達。
  • 現場の社員はそんなものに参加する余裕はない。もしも参加してたら仕事をしない暇な人。

という感覚のものだった。

Yちゃんは、ああ言っていたが、
さてはて、ハードの部署では、実際どんな感じなんだろう?

 * * *

数日後。

Yちゃんが予告していた通り、掲示板にES委員会への参加者募集の告知が上がる。
隣りのK橋さんに、
「ちょっとこれ興味あるんですけど、行ってもいいですかね?」
と告知内容を表示させた私のPC画面を指差しながら言うと、
「あぁ、いいんじゃないですか、行ってきたら。
 うん、大事ですよね、そういうの」
K橋さんは、うんうん、と頷く。

(あ、本当にそんな感じなんだ…)

「じゃあ、H瀬さんに参加の了承をもらえばいいですかね?」
私たちのチームの面倒をみてくれている部長の名前を挙げる。

「別にどうでもいいと思いますけど…、
 まぁ今度の進捗会の時にでも言っておくといいかもしれないですね」
言っても言わなくてもどうでもいい、という感じだった。

マジか、と、ここでもカルチャーショックを受ける。

ソフトウェアの部署だと、こういうものに参加する時には、
事前に上司へのお伺いは必須だ。それを省いたら雷だ。
というか、お伺いを立てたところで、現場の社員が参加するのは基本渋られる。


2010年10月。
こうして、ハードの部署にいたおかげで、
私はあっさりとES委員会に参加することになり、
ここから会社を辞めるまでの3年半、私はES活動に取り組むことになる。

ちなみに、この活動に対するハードの部署の人たちの反応は、
最初から最後まで一貫して、
「へぇ、いいんじゃない」
「どういうことしてるの?」
「Uさん(常務)はどういったこと言ってるんだ?」
「良い活動してるね~」
といった肯定や興味の反応一色だった。


そうして、このES委員会を起点にして、
やがて私は、会社の中を自由に駆け回っていくようになる。

(つづく)

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