"好き"と"関心"を巡る冒険 第二章 中編 vol.10

(前回のあらすじ)
会社の壁問題に対するコミュニケーション施策として、
ソフトウェア部署とハード部署の幹部社員の仲を取り持ってくれるよう、
経営層へプレゼンしに行くも、本題に入る前にまさかのタイムオーバーとなる。


(主な登場人物)

  • 私…コミュニケーションWGリーダー。一般社員。籍はソフトウェア部署、プロジェクトはハード部署、という二重所属状態。
  • O村さん … ソフトウェア部署のリーダー格の一般社員。私の1つ上の先輩。私にWGに無理やり引きずり込まれた。
  • K池さん…ハード部署の幹部社員。ハード部署の賑やかし役。
  • M川さん…ES委員会のコンサル。ファシリテータとしてWGを補佐。

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次のコミュニケーションWGにて、
私はメンバーたちに、経営層へのプレゼンの不発結果を報告した。

「あの施策で通るかどうかは五分五分だと思ってたけど、
 さすがにあの態度はないですよって、あの後、Uさんに言ったら、
 『もっと明るい内容のものが来ると思ってたんだよ…』って言ってたわ」
ため息をつきながら、コンサルのM川さんが言う。
Uさんは、ES委員会を主導している常務で、
コミュニケーション施策の提案を求めた当人だ。

「問題の根本原因から目を逸らして、表面的な明るいイベントをやったって
 意味ないでしょう!」
吠える私を、まぁまぁとM川さんが、なだめる。

「まぁ、そんなうまくはいかねーよなぁ」
O村さんが言う。

(やっぱそう言いますよね…)
あぁ、ここからどうすればいいんだ…と私はうなだれる。

その時。
「もうさ、あいつらは無視して、
 勝手に下の方で仲良くなっちゃえばいいんじゃねーの?」
K池さんが言った。

「幹部社員と一般社員の方で、もう勝手に仲良くなって、
 後からあいつらが『自分たちも入れてください』って言ってきたら、
 しゃーねーなーって言って、仲間に入れてやればいいんじゃねーの?」

なるほど。それもいいかもしれない。
あんな人たちのことなんて、無視してしまえ。

でも、具体的にどうやればいいんだ??

「じゃあ、やっぱボウリング大会やります?」
O村さんが言う。彼は本当にボウリングが好きだ。

「おぉ、いいじゃねえか。それで盛大に行こうぜ」
O村さんの提案に、K池さんもそう答える。

え?
結局イベントでいいの??

戸惑う私に、
「このWGの最終目的は何だ?」
K池さんが尋ねた。
「社員間のコミュニケーションを活性化することです」
私は答えた。
それはWGの中で、これまでも何度か繰り返されてきた問答だ。

 * * *

このWGの最初のミーティングの時に、
「目的と目標を明確にしようぜ」
とK池さんに言われて、大きな山の絵を描いた。

山の頂上に旗を立てて、
麓から頂上までの道を描いて、
道の途中に旗を立てて。

「この頂上の旗が目的、途中の旗が目標、そこまでの道が施策だ」

そう言われたけれど、
こんな絵を描くことに何の意味があるんだろう?
最初は、そう思っていた。

だけど、『コミュニケーション活性化』という、
ひどく曖昧なものを相手にしているが故に、
私たちのWGは幾度もどこへ向かえばいいのかわからなくなって、
迷走しそうになった。

そしてその度に、K池さんやM川さんに、
「このWGの目的は?」
と私は再確認され、そのたびに、私はこの山の頂上を指差し、
「そうだ。その頂上に辿り着けさえすればいいんだ」
そう言われた。

 * * *

いいか?と言って、K池さんは状況を整理した。
「頂上に辿り着くまでの、まず最初の目標地点として、
 『ソフトウェア部署の幹部社員と、ハード部署の幹部社員が
  仲良くなること』
 を俺たちは設定して、そこに向かうために、
 『経営層に取り持ってもらう』というルートを計画していた。

 だけど、どうもそのルートでは頂上に行けなさそうだから、
 別のルートに変更するんだよ」


"経営層を介して幹部社員同士に仲良くなってもらって、
 そこから一般社員にも広げていく"
という上から順に仲良くなっていくルートではなく、
一気に一般社員から仲良くなるルート。


どうやったら、一般社員たちが仲良くなれるか?
どうやったら、彼らにコミュニケーションの場に出てきてもらえるか?

「ここまでのWGの中で、私たちはそれを散々に考えてきたし、
 自分たち自身でも体感してきたわよね。
 だから、今の私たちなら、ボウリング大会で大丈夫よ」
そう、M川さんが背中を押した。

 * * *

私は、このコミュニケーションWGを通して、
『何度でも目的に立ち返る』
ということの大切さを学んだ。

この数年前に、リーダー研修を受講した時、
「リーダーが果たす一番大事な仕事は、『希望を灯す一言を言うこと』だ」
と講師の方が言っていたのが印象深かった。

その時は、それが具体的にどういうことなのか、よくわからなかったが、
コミュニケーションWGで迷走したり、行き詰まりそうになるたびに、
K池さんやM川さんの、私には思いもつかない視点や切り口からの一言によって
道が切り拓かれるのを何度も体感するうちに、
「『希望を灯す一言』というのは、こういうことなんだな」
そう実感した。

「目指す目的地はここだよね?
 じゃあ、そっちがダメでも、こっちのルートがあるよね!」
これこそが、『希望を灯す一言』なのだ。

「私もこういう一言を言える人間になりたい」
強く思った。
知識も経験も、まだまだ足りない。だけど、なりたい。

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 * * *

こうして、

「とにかくプロジェクトにこもっている社員たちを一人でも多く引っ張り出して、
 『なんかよくわからないけど、来て楽しかった!』
 ていう感想を抱いてもらおう。

 プロジェクト以外の人と交わる体験と、
 楽しい!っていう感情を紐づけることで、
 コミュニケーションの場に出てくることに価値を見出してもらおう!」

という目標を私たちは新たに掲げて、
WG総力を挙げた、ガチのボウリング大会企画が始まるのだった。

(つづく)

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