"好き"と"関心"を巡る冒険 第二章 中編 vol.11

(前回のあらすじ)
経営層へのプレゼンが不発に終わったコミュニケーションWGは、
「とにかくプロジェクトにこもっている社員たちを一人でも多く引っ張り出して、
 『なんかよくわからないけど、来て楽しかった!』
 ていう感想を抱いてもらおう!」
という目標に方向転換して、ガチのボウリング大会企画を始める。

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ボウリング大会の企画を始めた私たちは、
目標を達成するために、どういう工夫をすればいいのか、
イデアを出し合った。


「『よくわからないけど、なんか楽しい!』って感じてもらうには、
 やっぱり、ボウリングの1フロア貸し切り、懇親会も店貸し切りで、
 盛大にやらなきゃだな」

なるほど。
おのずと、最低限の目標参加人数が決まる。


それだけの社員たちに来てもらうには、どうすればいいだろう?

特にソフトウェア部署の社員たちは、普通に考えて、
平日に定時上がりしてボウリング大会に来たりしない。

「そういえば、創立記念日は早く上がれますよね…」
誰かが言う。
創立記念日は、15時に仕事を上がってよくて、
毎年、職場全体的に、早めに仕事を上がりやすい雰囲気になる。

よし、じゃあ開催日は創立記念日にしよう。


「でも、せっかく創立記念日で早く上がれるなら、
 わざわざ会社のイベントに行くよりも、
 家に帰るか、仲の良いメンツと飲んでいきたいと思うよなぁ…」
誰かが言う。

その通りだ。
何か、餌になるようなものはないだろうか…。

「そういえば、新人さん入社しましたよね」
誰かが言った。
そう、いつのまにか年度が替わり、5月に入っていた。
「新人歓迎会って言えば、結構、呼び水になりますよね」

それだ!
じゃあ、表向きの名目は、新人歓迎ボウリング大会としよう。


でも、あともう一押しの呼び水となるものも欲しい。

「会社が本気でやるんだって、伝わるようにしようぜ。
 『ボウリング、懇親会、豪華景品込みで、こんなお得な参加費ですよ!』
 っていう風にしようぜ。
 会社から、ばんっと金を出してもらうんだ」
幹部社員のK池さんが言う。

え?そんなこと可能なの??

目をぱちくりする私に、
「会社にとって価値あることやるんだから、出させるんだよ。
 これで社員のコミュニケーションが促進されて仕事がうまくいくようになるなら、
 会社にとったら安い金額だよ」
そうK池さんは言った。

ぺーぺーの私には、目から鱗の考え方だった。

こうして、

  • ボウリング会場は1フロア貸し切り、懇親会は店全体を貸し切りで実施。
  • 社員の参加費は一律1000円。(ボウリング、懇親会費用込み)
  • 超豪華な景品つき

ということを実現するための金額を会社から出してもらおう、という話となった。

 * * *

もろもろの予算をはじき出し、
じゃあ、会社のお財布係のU常務の元に行ってみるか…
でも、本当にこんな金額をぽんっと出してくれるものなのかなぁ…
半信半疑な私に、M川さんがささやいた。

「あのね。経営層の人達みんな、
 『この間のアレ、悪いことしちゃったなぁ』って、あなたに対して思ってるわよ。
 『一生懸命、自分たちに提案しに来てくれた若い子をいじめて帰してしまったな、
  悪いことしちゃったなぁ』って」

「別に私はいじめられたなんて思ってませんよ。
 あのわからず屋どもが、って思ってるだけですよ」
私が口をとがらせると、
「いいから、そういうことにしておくの」
M川さんが、たしなめた。

「あのね、人間ってそういう時、
 『俺はそんな悪い奴じゃないんだ』って証明したくなるものなのよ」

だからSatoちゃん、とM川さんは続けた。

「思いっきり笑顔で行きなさい!
 『こんな面白いことやるんです!ぜひ、協力してください!』
 って笑顔で行ってきなさい。
 そしたらあの人達、喜んであなたに手を貸してくれるわよ!」

美人で策士のM川さんは、満面の笑みでそう言って、私の背中を押した。


(そういうもの??)

そんな単純なものだろうか、と思いつつも、
それでうまくいくというなら、やってみようじゃないか。


私はU常務の部屋をノックして、
こんにちは、と、にこっと笑って中に入る。

「WGで色々考えた結果、ボウリング大会をやってみようってことになりました」
「おぉ、そうか。いいんじゃないか」
明るい企画を欲していたU常務の反応は良い。

「それで、思いっきり盛大にやりたくて…。お金を出してほしいんですけど」
にこっと笑って言ってみる。

「おぉ、いいぞ、いいぞ。いくらだ?」
私はにこっと笑って金額を告げる。

「おぉ、いいぞ、いいぞ」
U常務はあっさり言った。

U常務の快諾に、にこっと笑みを返しつつ、
(・・・・マジですかぃ)
心の内で驚いていた。


こうして、M川さんのアドバイス通り、
本当にあっさりお願いごとが通った私は、
そこから調子に乗って、『笑顔でお願い戦法』を全経営層相手にかましていく。

 * * *

「やっぱ、会社としての本気を見せるには、経営層全員にも
 ボウリング大会に参加してもらわないとな」
「経営層から幹部社員にも強く参加を呼びかけてもらえば、
 社員の参加率も上がるよね」
ボウリング大会の企画もだいぶ大詰めとなっていく中、WGでそんな話が挙がる。

『勝手に下で仲良くなる作戦』ではあったが、経営層も巻き込んだ方がいいなら、
よし、巻き込もう。


じゃあ、私がお願いしにいってきますね、と言って、
私は各経営層の元に足を運ぶ。
にこっと近づいて、にこっとお願い。
彼らは笑顔で承諾してくれた。

「俺はそういうの出ないから…。でも部下には出るようにちゃんと言っとくから」
一名だけ、そういう人がいたが、彼にも何度も足を運んでは、
「あなたに来てもらうことがとっても大事なので、ぜひ、参加してくださいっ」
にこっとお願い。
最後、根負けした彼からも「わかった、わかった」と承諾をもらってVサイン。


「Iさん、今日の幹部会議でも
 『Satoさんが頑張って企画してるから、可能な限り業務の調整をつけて
 ボウリング大会に参加してほしい』
 って幹部社員たちに呼びかけてたぜ」
WGでK池さんが言う。

Iさんとは、施策提案プレゼンの時に「おれは疎外していない!」と言い張って、
プレゼンをタイムオーバーに導いた事業部長だ。
このボウリング大会の時、経営層の中でも彼が一番頑張って、
部下たちにボウリング大会への参加を呼びかけてくれた。

「『俺は行かないけど、Iさんの顔を立てるために、お前ら行ってやれ』
 って今日、K部長も言ってたから、俺たちのところも、
 だいぶ行きやすい雰囲気になってる」
O村さんも言う。

その数日前、
「俺、ついにK部長にこのWGに参加してることを白状したよ。
 お前の名前出したからな!お前に引きずり込まれて仕方なくって言ったからな!」
と彼は言っていた。

初回WGの時に「今日だけでいいので!」と言って、
無理やりWGに引きずり込んだO村さんは
ES活動に良い顔をしていない上司のK部長にWGへの参加を隠したまま、
ずっとWGに参加し続けてくれていた。

どうぞ、どうぞ。
私の名前ひとつで、うまくいくなら、いくらでもお使いください。
にこっと笑って私は返した。

 * * *

この頃から、私はひたすら社内を駆け回り、
色々な人の元に笑顔でお願いしに行くようになる。

「おぉ、ボウリング大会がんばれよ」
「ありがとうございます! ぜひ参加よろしくお願いします!」
そんな風にたくさんの人達と言葉を交わしあっていくようになる。


初夏の日差しがきらきらと明るく社内を包みこむ中、
たくさんの人達の元に協力を求めて、社内を駆け回る。

(あぁ、楽しいな。こういうの好きだな)
そう思いながら、駆けていた。

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2011年6月。
こうして、社員のコミュニケーションを活性化するべく
WG総力を挙げて開催した全社ボウリング大会は、
全経営層と、全社員の3分の1以上が参加する形で、
大盛況のうちに幕を閉じた。

(つづく)

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