"好き"と"関心"を巡る冒険 第二章 後編 vol.10

(主な登場人物)

  • 私…ハード部署の保守センターの業務を整えようとしている。籍はソフトウェア部署。
  • Yさん…初代センター長。私をセンターに入れた人。
  • H野さん…2代目センター長。私の仕事が理解できない人。
  • K松さん…センターの実務をこなす課長。ただでさえ多忙なのに、仲の悪い上の人達の間に挟まれて、さらに大変な人。
  • Aさん…新しくセンターにやってきた部長。ある日を境に、私に罵声を浴びせるようになる。
  • K部長…ソフトウェア部署側の上司。基本的に年に4回の成果面談でだけ会話する人。

(前回のあらすじ)
K松さん立ち合いのもと、私はAさんに真向かい、行き違いの元になった11月中旬の誤解を解く。

前回→"好き"と"関心"を巡る冒険 第二章 後編 vol.9 - Sato’s Diary
全話リストはコチラ


2013年3月末。
Aさんとの話し合いの日から1か月ほど経ち、
ようやく、心緩やかに仕事をしていたある日。

「今から話があるから、会議室に来れるか」
K部長から、内線電話で呼び出しがあった。

(珍しいな。なんだろう?)


K部長は、ソフトウェア部署側の私の上司だったが、
私が休職明けてセンターへ異動するタイミングで直属の上司になった彼とは、
直接一緒に仕事をしたことはなく、
基本的に年に4回、評価面談の時にだけ会う関係だった。

そして、そのたった年に4回に交わす会話も、

「ES活動なんて意味ないだろ。お前、悪目立ちしてるだけだぞ」
毎回そんなことを言われ続け、

「就業制限かかってるからBね」
何度、K松さんからA評価をもらっている評価シートを持って行っても、
そう一言で片づけられ。

「『就業制限なんて関係ない、成果を出しているなら
  それは堂々と成果として書いていいんだ』
 ってK松さんは言ってくれてるんですが」
そう言うと、
「そりゃ、プロジェクトの上司はそう言うに決まってるだろ。
 うまいこと言って部下が働いてくれればいいんだから。
 でも、評価しなきゃいけないのは俺だ」
そう言われ。

(別に私のモチベーションを上げてくれとは言わないけど、
 仮にも上司なのだから、部下のモチベーションをわざわざ下げるような
 真似はしないでほしいなぁ…)

どれだけモチベーション高く、明るい気持ちでいる時に会っても、
会った後には、必ず、私のテンションを少なからず落とされる相手だった。

 * * *

指定された会議室へ行き、K部長に対面すると彼は言った。

「人事部から新人研修の講師の話が来ているから、
 センターは出て、来月中旬からはそっちの仕事をしろ」

やっぱり彼は、ろくなことを言わない。

彼の言葉を聞いた瞬間、サーっとなった。

なぜ、ここまできて、またもや人事部の仕事なのだ。
3度目に人事部の仕事をH野さんが勝手に引き受けてきたときには、
もういい加減にしてくれ、と
K部長にお願いして、彼からH野さんに申し入れてもらったくらいなのに。

しかも、今回はセンターを出ろ、とは。

「私がもうこれ以上、研修の仕事をやりたくないの知っているのに
 何を言っているんですか!? しかも、センターを出ろって…」
やっと、ようやく、センターの仕事に集中できるようになったところなのだ。
やっと、センターの業務を効率化させていくために、これからが本番というところに、
やっと来れたのだ。

「口答えは許さない。とにかく決まったんだ」
K部長は言った。

「理由を言ってください。研修の仕事なら、他の社員だって、
 いくらでもできる人はいる。
 だけど、センターの仕事をできるのは私しかいないんです!」
そう食い下がると、
「自分の知り合いのいないところなんて、どうなろうが知ったことじゃない」
つまらなそうに彼は言った。

私は絶句する。
仮にも幹部社員である人間が口にする言葉だろうか。
センターを出されて、
こんな人間の元に戻されたら、私は閉じ込められてしまう。

「上司には部下への説明責任があります! きちんと説明してください!」
私は食い下がる。
「言いたくない」
と、K部長。
「説明してください!」
「嫌だ!」
「なぜですか!?」
「言ったら、お前は絶対お前の思い通りにするだろ! だから、言いたくない!」

K部長のセリフに、私はさらに唖然とした。
(何を言っているんだ、この人は…)

そりゃあ、もしも理由を聞いて、
それが納得できないものならば、それが最善だと思えないならば、
自分が最善だと思うことのために手を尽くすのは当たり前じゃないか。

それを怖れて、上司が部下への説明を拒否るって、どういうことだ。

駄々っ子のようなK部長に、私は幾分の落ち着きを取り戻して言った。
「上司には説明責任があります。部下が納得して働くために、
 きちんと納得できる理由を説明する責任があります。
 センターの仕事は私しかいないんです。
 やっと、ここからが本番というところに来れたんです。ここで私がいなくなったら、
 これまでの3年間やってきたことが全て水の泡なんです」

「3年分が水の泡になるのか…」
私が少し落ち着きを取り戻したせいなのか、私のその言葉が少し響いたせいなのか、
K部長はそう言って、少し黙り込む。

「わかった。話すかどうか少し考える」

その場はそれでお開きとなった。


私は呆然としながら、センターに戻り、K松さんの席に行く。
K松さんは、私が口を開くより前に、憮然と、
「俺も昨日いきなり聞かされたんだ」
そう言った。

無念さに、私の目から涙がぼたぼたと零れ落ちた。

f:id:satoko_szk:20211127113852p:plain

(つづく)

次の話→"好き"と"関心"を巡る冒険 第二章 後編 vol.11 - Sato’s Diary
全話リストはコチラ