"好き"と"関心"を巡る冒険 第二章 後編 vol.14

(主な登場人物)

  • 私…ハード部署の保守センターの業務を整えようとしている。籍はソフトウェア部署。
  • Yさん…初代センター長。私をセンターに入れた人。
  • H野さん…2代目センター長。私の仕事が理解できない人。
  • K松さん…センターの実務をこなす課長。ただでさえ多忙なのに、仲の悪い上の人達の間に挟まれて、さらに大変な人。
  • Aさん…新しくセンターにやってきた部長。私に対して、やらかしてしまった人。
  • K部長…ソフトウェア部署側の上司。基本的に年に4回の成果面談でだけ会話する人。

(前回のあらすじ)
相性の悪いK部長の元から離れることを決めた私は、異動のための策を考え始める。

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これから自分がどうしたいか、どこへ行こうかを考えながら、
センターに思いを馳せる。

自律的なメンバーの集まった組織だが、
直接お金を稼いでくる人は好き勝手できます、という状態でもあるために、
いつまでたっても中はバラバラなままだった。

業務を整えて、組織としての価値を出すことが私のミッションだったが、
業務を整えることの価値を知らないH野さんやメンバー達に、
振り回され続けてきた。

それでも、いつか実を結ぶ日のために…と、コツコツやってきたけれど、
自分さえ良ければいいです、という幹部社員たちによるお馬鹿な顛末ゆえに、
まともな引き継ぎ相手のないまま、センターを出ることになって。

たぶん、私がいなくなったところで、
何かが大きく変わるわけではない。

だけど。
私は、私がいることで変えていきたかったんだ。


私は、私の中の意志を確認する。

(センターの仕事は、私の中でやっぱり終わっていない。
 私にできること、私でなければできないことが、まだある)

それならば、私はやっぱりセンターに戻ろう。

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そう自分の気持ちを定めた私は、
センターに戻るための策を考え始めた。

 * * *

(Aさんも、もう充分に自分の過ちを理解しているところよね)
私は思う。

私のことを
『能力は低いくせに文句ばかり言って、気に入らない人間を貶める社員』
と見なして、
自分が貶められる前に…と、色々策を弄して私を追い出そうとしたところで、
自分が勘違いで突っ走ってしまったことに気づき、
でも今さら後には退けず、
結局は私の仕事を自身が引き取る羽目になり、
だけどその仕事の内容はチンプンカンプンで、
きっと今頃は困り果てていることだろう。


再び、センターを思い浮かべる。

仲の悪い上司たちがコミュニケーションを取らずに、
好き勝手に人を入れたり、出したりして、
メンバーたちが振り回されているセンター……。

不意に妙案を思いついた私は、ぽんっと手を打った。

(よしっ、そこを利用しよう!)

にやっと笑う。

 * * *

K部長から聞き出していた私の異動に至るまでの話の中に、
Yさんの名前は出てこなかった。
「元トップ」のポジションの彼は、今回の私の異動に関する件に
直接は関わっていなかったのだろう。

Yさんは私をセンターに入れた人なので、
自分が入れた人間が自分の預かり知らないところで
異動が決まったことについて、
H野さんと一悶着くらいは、あっても良さそうだけど、
今のところ、その様子はない。

Yさんが今回の件について、どこまでを把握しているかわからないけど、
だったら、Yさんに今回の全容を話して、
ひとつ小芝居を打ってもらおう。

「なんか、こいつ別の仕事があるから外に出たって聞いてたけど、
 結局行くところがないって言ってるから、また連れてきたわ。
 なんかAも困ってるみたいだし、ちょうどいいだろ?」

そう、しれっと小芝居を打ってもらって、
私をまたあそこに連れ戻してもらおう。
今度は籍も異動させてもらう形で。

私の異動の真相を知っている幹部社員たちにも、
私と仲の悪いH野さんが私を追い出したのだろう、と
推測しているセンターのメンバーたちにも全員、
私が働きかけたことなんてバレバレの茶番だけど、
別に誰も困らない。

Yさんに勝手なことをされたH野さんが、ちょっとムッとした顔をして、
Aさんが一瞬引きつった顔をして、
あとはみんなで爆笑して終わりだ。

Aさんは、しばらく居心地の悪い思いをするだろうけど、
彼だって自分の手に負えない仕事から解放されるのだから、
ちょっとくらい居心地の悪さを抱えながら、
自分のやったことを反省していればいいんだ。


Yさんは、それなりに私のことを買ってくれているし、
人から頼られるのが嬉しい人だから、協力してくれる可能性は高い。
権力の使い方、頼り方を間違えたらダメだけど、
こんな風に使う分には、問題ないだろう。

そういう計画だった。


自分の思いついた面白い作戦に足を弾ませながら、
私はセンターへ向かった。
離席していることの多いYさんだったが、
この時はちょうど、彼の席後ろの窓から、暮れいく景色を眺めていた。

Yさん、と
悪戯っ子の笑みを浮かべながら、私は声を掛けた。

「今夜これから、飲みに行きませんか?」



 * * *

ねぇ、Yさん。

こういう計画だったんですよ?
私があの夜、あなたを飲みに誘った時、私の胸の内にあったのは、
こんな愉快な大団円の計画だったんです。

(つづく)


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