"好き"と"関心"を巡る冒険 第二章 後編 vol.2

(前回のあらすじ)
センターに来て8か月後、
色々あって、私はツールチームのリーダーになる。

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センターは、部長クラスの入れ替わりが激しく、
私の直属の上司は2人の部長を経て、最終的には課長のK松さんで落ち着いた。

また、私をセンターに招き入れた初代センター長のYさんは、
既に役職定年を迎えていて、
2代目センター長としてH野さんがいたが、
私が来て1年くらいまでは、
いまだ実権はYさんの元に…みたいな状態だった。

YさんとH野さんは仲が悪く、互いに直接会話をせず、
「H野に、これ言っとけ」
「Yさんに、これ言っといて」
そんな風に、多忙な課長のK松さんを介してコミュニケーションを図る、
困ったおじさん達だった。

私の目から見て、彼らは
センターの中で陣取りゲームをしているような感じで、
あっちのチームには、Yさん経由で加わった協力会社のメンバーがいて、
こっちのチームには、H野さん経由で加わった協力会社のメンバーがいて…、
みたいな状況だった。

私のチームにH野さん経由で加わった協力会社のメンバーがいるのを
通りかかったYさんが見て、
「ん? 俺の知らないやつがいるな?」
とか言って、協力会社の人達が慌てて挨拶をする…
みたいなシチュエーションになった時とかは、
(もう本当にそういうこと言うのやめて…)
と、げんなりした。


だから、私がチームリーダーになって少しした頃に、
そろそろ、いい加減にH野さんにバトンを渡さないとね、
みたいな雰囲気になって、
それまで個別のチーム会議にはほとんど顔を出すことのなかったH野さんが、
私のツールチームを含む、保守センター内の業務運用系のチームが
集まる会議に顔を出した時には、
(ここから陣取り開始するつもりなのかなぁ…)
そんなことを思った。

まぁ別にお偉いさんたちの陣取りゲームなぞ、
知ったこっちゃない。

私は、普通にいつも通りの進捗報告やら課題報告やら相談やらを
課長のK松さんや、他の出席者たち相手にしていく。

それが一区切りついたところで、だ。
H野さんが口を開いた。
「結局、何が必要なんだ?」

・・・はい?

突然の質問の意味がわからず、私が目をしばたかせると、
「俺はな、長年色々やってきた結果、
 結局必要なものは、この3つのどれかに絞られるという結論に達したんだ。
 人、物、技術。このどれかだ。
 さぁ、どれが必要なんだ? 手配してやるから言え」
自信満々に、H野さんは持論を展開した。


この頃、私がやっていた仕事というのは、
センターの業務を整理することだった。

私がリーダーを務めるツールチームの仕事は、
センターの業務を効率化するためのツール開発だったが、
やっていくうちに、
「これはツールを作る以前に、まずは業務を整えないと駄目だろう…」
ということが判明したのだ。
なにせ、センターで運用保守している顧客の全容すら、
誰も把握しきれていない状況だったのだ。

個人主義のこの職場は、それぞれがそれぞれに、
仕事やらお客さんやらを獲得してきては、
仲が悪くて互いにコミュニケーションを取らないお偉いさんたちを
その都度都度でうまく選んで相談しているような状況だったから、
幹部社員ですら、全容を把握できていない状態だった。

「個別分散している保守業務を一カ所に集めることで
 会社として業務を効率化しよう」
という名目の元に作られた保守センターだったが、
結局、その中で、ばらばらなままだったのだ。


システムというのは、あくまで添え木のようなものなのだ。
保守センターで管理する必要のある情報を整えて、
そこから運用フローを整えて、
その上で、システムがあると効率化されるところについて、
システムを用意するものなのだ。
「何か素敵なシステムができたら、それで全て解決☆」
なんてことはないのだ。

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だから、私は、自信満々に語るH野さんに、
(何をズレたことを言っているのだろう、この人は…)
と思いながら
「いま必要なのは、このセンターの顧客一覧や運用フローを整えることです。
 新たに人を入れたり、何か物を調達したり、技術を導入することで
 解決することではないです」
と、すげなく返した。


H野さんは、それ以来、
「ツールチームはK松に任せた。俺は知らん」
と言って、私たちの会議に出ることはなくなった。

私の方も、
陣取りゲーム目的で会議に出席されて、
ズレた発言でかき回されるのは勘弁だったので、
H野さんが私たちの会議に出なくなったことについて、
特段気に留めなかった。


これがこの後、色々と大変になっていくことの
幕開けだとは、この時の私は知る由もなく――。

(つづく)

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