家探し編5 新しい出会い

1月連休最終日の正午。


これだ!と思った物件が、まさかの不良物件で、
他に良さげな物件も見あたらず、
意気消沈してIさんの不動産屋をあとにした私は、
とりあえず、川崎駅前のコーヒーショップで昼食をとることにした。


昼食を食べながら、Nexus7でSuumoを立ち上げて、
物件情報を眺めるも、出てくるのは既にチェック済みで、
イマイチ、心に引っかからなかった物件たち。


Iさんの言うとおり、これだけネットで探して見つからないのだから、
やっぱり私の望んでいるような物件なんて、ないのだろうか?


ためしに、検索条件の価格帯を上げてみる。
もしかしたら、物件がないのではなく、
私の希望が、私の身の丈(予算)に合わないだけかもしれない。


けれど、出たきたのは、
「いや、一人で3LDKや4LDKになんて住みたくないし……」
「いや、こんな高級ちっくなマンションは好みじゃないし……」
という感じで、どうやら予算はそれなりに妥当な模様。
ということは、今の時点で売りに出ていないってことなんだよな。


ふぅむ……。
腕を組んで考える。
こうやってSuumoでチェックしつづけて、気になる物件がまた見つかったら、
Iさんに連絡して、内覧して……
ていうのを繰り返していくしかないんだろうか。


だけど、自分で物件を探し始めて3週間あまり。
正直そろそろ疲れてきた。
これでもない、あれでもない、これかな?……あぁ、違った。
毎日繰り返すその作業は、結構、エネルギーを消耗する。


一回しばらく離れて、またエネルギー沸いてきたら、
再開すればいいのかな……?


そんなことを思う。


でも、
こういうのはタイミングと勢い。
何となく、このタイミングを逸してはいけないような気がした。


うぅむ……と考える。
冬至を過ぎたばかりのこの季節。
早くも 西へと傾き始めた陽の光に急かされるように、
どうしよう……どうしよう……
と考える。


その時、ふと一軒の不動産屋のことが頭に浮かんだ。


本日打ち破れたあの物件のことをネットで色々調べているときに、
物件の現地写真をたくさん掲載している不動産屋のページを見つけた。
その不動産屋のブログには、こまめに、
色々な物件の「現地に行ってきました!」情報がアップされていて、
その情報は、写真が豊富で、中の様子がよくわかって、
そして最後に、「個人的な所感ですが……」と一言添えて、
その物件の良いところ、悪いところが書かれている。
良いところと悪いところの両方が書かれているのが、なんか良いな、
と思った。


その不動産屋のホームページを色々見ていくうちに、
社長含めて2名の小さな不動産屋なこと、
大手の不動産屋に勤めていた社長さんが、
お客さんひとりひとりときめ細やかに向き合えるのは個人の店の方だな、
と思って数年前に開業したということなどがわかってきた。


お客さんのアンケートの写真も掲載されていて、
丁寧に誠実に対応してもらえて良かったです、
ていう感じの内容がいっぱいだった。


そして、社長さんのブログを見ると、
ゆるキャラについての話が書かれていたり、
「社員に『もうちょっと真面目な話を書いてください』と怒られました」
という話が書かれていたりして。
やばい……すごいツボだ( ̄▽ ̄*


見ていけば見ていくほどに、どんどん、
「なんか、この不動産屋さん、いい!(≧▽≦)」
て感じになってきて、
「最初から知ってれば、こっちに行ったのにな〜。
 今回はIさんのところで、このまま契約にいきそうだから、
 次回、機会あったらここにしよう!」
とまで思い、応援の想いを込めて、その不動産屋さんのFacebookページの「いいね!」ボタンも
ぽちっと押した。


・・・そうだ、今回契約にならなかったんだから、あの不動産屋に行こうじゃないか!


そう思い、立ち上がる。


ネットに出てくる物件情報でほとんど全てだということはわかっていたけど、
とにかく、その不動産屋へ行くことで、何かが変わるかもしれない。


ちゃっちゃか食器を片づけて、
南武線に乗り、その不動産屋へ向かった。


その不動産屋は、駅のそばの小さなビルの2階にあり、
入口は、中の見えないタイプの鉄の扉だった。
(普通に通りかかっただけなら、この扉を開けて中に入るのは避けただろうな……)
と思いながら、勇気を出して扉を開ける。


中に入ると、お店の人らしい女性と1組のお客さんが話していた。
女性が私を見て、
「すみません、今、私しかいなくて接客中で……。
 ご予約いただいて、またご来店いただく形でもいいですか?」
と言った。
(次に来るとなったら、来週末かぁ……なんとなく、あんまり期間を空けたくないんだけどなぁ……)
う〜ん……と悩んでたら、お客さんが、
「私たち、あとでも大丈夫ですよ。先にいいですよ」
と、言ってきた。


いやいやいやいや、さすがにそれは……!ヽ(゚o゚;
と手と首をぶんぶん振っていたら、
「4時か5時でしたら、空くと思うんですが……」
と言われた。
「じゃあ、4時にまた来ます」
即答して、駅前のコーヒーショップで時間を潰すことにした。


良いお客さんだったな。
てことは、お店の人も、きっと良い人だな。
コーヒーショップで時間を潰しながら、そんなことを思う。


そうして時間になり、再びお店へ。
先ほどの女の人が迎えてくれる。


別の不動産屋へ行っていたのだけれど、行き詰まってこちらに来たことを伝える。


「あ、そうなんですか。
 じゃあ、まず、こちらに記入していただいていいですか?
 で、どのあたりでどういう物件をお探しですか?」
渡された必要事項記入用紙に記入しながら、自分の希望条件を伝える。
条件を聞きながら、女性─ ─ Aさんが、少し離れたところでパソコンをカチャカチャ操作していく。
「これくらいの場所と広さだと……最近、私が行ってみた所なんですが、
 △ △に1件物件ありましたね。8階建ての5階なんですが……」
そう言ってAさんが挙げたのは、まさに私が打ち破れてきた物件。
「それ、○○って名前のマンションですよね?
 そこ行ってきて、良いなーと思ったんですけど、積立金貯まってなくて借金あったんですよ(>_<)」
「あ、そうだったんですか……じゃあ、あそこは無し、と……間取りはあんな感じのところがいいんですね」
そう言いながら、Aさんは条件を打ち進めていく。


バイク置き場ですか……う〜ん、難しいんですよねぇ。
 今、空いてても入居の段階で埋まっちゃってることが多いんですよね」
バイク置き場が必要なことを伝えると、Iさんと同じことを言われる。
やっぱり、そうなのか……。
「以前も申し込みの時点で2台空きがあったので大丈夫だろう、と思ったんですけど、
 入居までの間に2台とも埋まっちゃったこととかあったんですよね。
 その時は、その方の実家が近くだったので、バイクはそちらの方に置くことにされたようなんですが」
う〜ん、モンキーを置くには、私の実家は少々遠い。。。


京急線だったら、駅前に大体バイク置き場があると思うんですけど、
 たとえばマンションにバイクが置けなかった場合、そちらに置くっていうのはどうですかね?」
Aさんが提案する。
「駅のそばの物件で、マンションのバイク置き場の空き待ちという形だったら、
 まぁ、それでも……」


前に住んでいたアパートには、バイク置き場がなく、駅のバイク置き場に置いていた。
ただ、イタズラが多く、ある朝、スケートリンクに行こうと思って乗ろうとしたら、
ミラーがなくなっていたり、
マフラーを外そうと試みられたらしく、乗ろうとしたら、マフラーがガタガタ揺れて、
よく見たらネジが外されていたり、
鍵を壊して盗もうとしたけど失敗したらしく、乗ろうとしたら、鍵が壊れてて差さらなかったり……
なんてことがよくあった(−−メ
だから、あくまで一時的な場所として、かつ、毎日チェックできるところが良かった。


自分の条件を一通り伝え終えたところで、Aさんがいくつかの物件資料を持って、
向かいの席に戻ってきた。
そして、私が書き終えた必要事項記入用紙を見ながら、
「現在は○○にお住まいなんですね・・・今回、マンション購入を考えられたのはどういった理由で?」
そう尋ねてきた。
・・・・・理由?(゜ ゜


理由は、ある。ちゃんとある。
その1に書いたように、色々ちゃんとある。
でも、これは、あれだ。
職場が変わったので。 →なるほど、場所がポイントなんですね。
今の家が手狭になって。 →なるほど、広さがポイントなんですね。
ていう、物件を探す上でのポイントを知りたいための質問だ、きっと。
だから、
なんとなく、もうちょっとその場所に属している感じがほしくて……とか、
なんとなく、エントロピーが静的平衡に達してしまった感じがして……とか、
なんとなく、そういうタイミングな気がして……とか、
そういうふわっとした答えを求めてるのではないはずだ、きっと。


う〜ん……としばらく悩む。悩む。
結果、私の口から出てきたのは、
「・・・・・・・なんとなく?」


・・・・・。


オイコラ。
なんとなく、でマンションを買おうとする人間なんていないだろう。


言ってから、言った自分に心の中で盛大に突っ込んだ。
(ちょ、これ、絶対、冷やかしか何かだと思われるよ!!(>_<))


けれどAさんは、
「なんとなくですか、そうですか……。
 今のところの家賃はいくらくらいなんですか?
 あ、○○円……じゃあ、月々の支払いは今と変わらない感じがいいですかね……」
と、私のアンポンタンな答えをさらりと受け流していった。


(「人に言いづらい事情があるのね」とか思われてたらどうしよう?)
違うんです、違うんです、別にそんな深い事情はありません……。


心の中でそんなことを並べ立てている私におかまいなしに、
Aさんは必要事項記入用紙を読み進めていく。
そして、最後、私の名前のところに目を留めて、
「あ、もしかして、Facebookに『いいね!』してくれました?」
と言った。


「あ、はい。物件の情報探してたらホームページ見つけて、
 なんか、良いなと思ったので、押しちゃいました( ´▽`)」
「あ、そうだったんですか。ありがとうございます。
 普通は知ってる方が『いいね!』してくれるので、どなただろう?、て思ってたんですよ〜」
・・・まぁ、たしかに普通はそうですよね/( ̄▽ ̄*


途中、店に戻ってきた社長さんに、
「この方、Facebookに『いいね!』してくれた方です」
と紹介された。
あ、それはどうも……と社長さん。
(おぉ、ゆるキャラの社長さんだ……)
と思いながら、初めまして、と挨拶を交わした。



「それで、とりあえず、色々出してみたんですけど、ちょっと見てもらっていいですか?」
必要事項記入用紙を一通り読み終えたAさんから、10枚ほどの物件資料を渡される。
渡された資料を繰ると、それらはやっぱり、自分がネットで見てイマイチ心に引っかからなかった物件たちだった。


う〜ん、、、やっぱり、そうだよなぁ……。


「どうですか?どれか気になるものとか、ありますか?」
Aさんに尋ねられて、
「う〜ん……これだけだと、やっぱり、よくわからないですね。。。実際に見てみないと。。。」
正直、物件情報見るのに疲れて、何が何だかよくわからなくなってきたしなぁ。


「まぁ、そうですよね。
 じゃあ、ちょっと気になるかな、てものをピックアップしてもらってもいいですか?
 内覧のスケジュール立てますので。ほんと、ちょっと気になるかな、くらいでいいので」
言われて、
(う〜ん、これはネットで見た写真からすると、キッチンが閉鎖的なんだよなぁ……
 これは、GoogleMapで調べた感じからすると、立地がイマイチな気がするんだよなぁ……)
と思いながらも、とりあえず、一度見てみようかな……という感じに、
いくつかピックアップしてみた。


「わかりました、じゃあ、これで内覧の予定組みますね。
 あと、私の方でも、いいんじゃないかな、という物件見つけたら連絡しますので」
そう言うAさんに、よろしくお願いします、と言って、
内覧日を次の日曜日に設定して、店をあとにした。



店を出ると、外はもうとっぷり陽も暮れていて。
契約の話を進める気満々で家を出た朝が、
もう別の日のことのように遠くに思えた。


(つづく)