"好き"と"関心"を巡る冒険 第二章 - 序2 -

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転職活動の途中、2社目の面接を終えて、
「今いる会社の人達と一緒にやっていきたい」
という想いが自分の中にあることに気づいて、
だけど、どうすればいいのかまったく見当がつかず、茫然とした日。

その日の翌日は、部長との面談が予定されていた。


会社を辞める時には、
すぐ上の上司(大抵は課長)に辞意を伝えた後、
その後、さらにその上の上司(大抵は部長)と面談し、
その後、総務部長と面談し(パワハラ等の問題がなかったかを確認するため)、
正式に辞めることが確定する。

辞めていった多くの同僚たちは、
転職先が確定してから上司に辞意を伝えており、
私自身も、元々は、こっそり転職活動をして、
転職先が決まってから上司に報告するつもりだった。

だけど、転職活動を始めた頃、
隣りの席の年輩社員のHさんが、
新年度の体制図を書いているのが見えてしまったのだ。
もちろん、そこには私の名前もあって。

(やばい。Hさんに無駄になる仕事をさせてしまっている…
 やり直しになることが確定している仕事をさせてしまっている…)

体制図を引く作業をしているHさんの様子を
隣りからちらちらと伺い続けるうちに、
ついに良心の呵責に耐えられなくなった私は、
まだ、これから面接を受けていくというフェーズだったにも関わらず、
課長に辞めるつもりであることを伝えてしまったのだ。


そんなわけで、
2社目の面接を受けて、迷いの生じてしまった日の
まさに翌日が、
部長との退職にあたっての面談日になっていたのだ。

(でも、こんなどっちつかずの状態で、部長との面談に臨めない…)

どうしよう、どうしよう、と、
焦って考えるも、何の答えも出ないままに、
夜明けが近づいてきた。

その時、ふと、本棚の中にあった一本のDVDが目に入った。
それは、私の大好きなアーティストのドキュメンタリー映画だった。

何を思ってそのDVDを手に取ったのかは、よく覚えていない。
何かヒントをもらえるかもしれない、と
ワラにすがるような気持ちだったのかもしれない。

とにもかくにも、夜明けが近づく中、
私はそのDVDを再生し始めて、
やがて、アーティストのこんな言葉が流れた。

「たとえば、私が『みんな走ろうよ』と言ったとして、
 一緒に走ってくれる人はいない。
 だけど、もし、私が90周走ったら、
 そのうちの1周を一緒に走ってくれる人は絶対いる。
 だけど、そのためには、やっぱり90周走らなければいけないんだ」

その言葉を聞いた瞬間、
(あぁ、私はまだ90周走っていなかったな)
そう思った。せいぜい8周くらいだ。

だって私は、まだ何も伝えていない。


その頃の私は、会社に対して思うところや、
自分が望む仕事の形だとかを、周りに伝えることはほとんどなかった。
ちょっと小出しに言ってみて、イマイチな反応だったら、
(やっぱり伝わらないよね)
と、すぐに言葉を引っ込めていた。

否定されるのが怖かったから。
というのも、もちろんあるけれど、
会社への不満を感じて、
いつか転職するかもしれない、と考えていた当時の私は、
辞意を伝えた途端に上司から無視され始めた先輩や、
厳しい言葉を投げつけられた同期やらを
間近に見ていく中で、

「自分の考えるところを引っ込めて、
 ただ、与えられた仕事を全うする“いい子”の社員をやっていれば、
 いつか私が辞める時、
 『あれだけ大変な想いをしていたんだから、仕方ないよね』
 誰もが、そう思うしかないだろう。
 誰にも文句なんて言わせない」

そう考えていたのだ。


だけど。

「まず、伝えてみよう」

この会社でどうやっていけばいいのか、全くわからない。
だけど、せめて次の一歩だけでも見つけるために、
まず、勇気を出して、
自分の考えていることを部長に伝えてみよう。

白み始める空を見ながら、そう決意した。

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(つづく)


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