“好き”は仕事にできるのか? vol.2

前回の話→“好き”は仕事にできるのか? vol.1 - Sato’s Diary
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「大学に入ったら、自分で好きな授業を選んで、好きなことを勉強できるんだ!」
とワクワクしながら大学に入学したが、いざ入ってみたら、
理系の授業はほぼ必修授業でコマが埋め尽くされて自分で選ぶ余地はほとんどなく、
必須授業も、ただひたすら板書したり問題を解き続けるスタイルのものがほとんどで、
自分の想像していたような自由な研究や勉強ができるのは
4年になって研究室に所属してから。
という現実を知り、意気消沈して、4年までの間は、バイトにいそしむことにした。

今振り返って考えれば、
大学というのは、その環境や資源をうまく利用するべきところで、
自転車好きな先生のところに、
自分の自転車を持って行って自転車の仕組みを教えてもらいに行ったり、
エンジン好きな先生のところにモンキーを持って行って、
バイクのカスタマイズ方法を教えてもらいに行ったりすれば
良かったんだよなー、
と思うのだけど、当時の私には残念ながら、そこまで考えが及ばなかった。


そんなわけで、まずは家庭教師のバイトを始めてみたけれど、
「勉強嫌いな自分が、他人にクオリティの高い教え方はできないよなー、
 教えるよりも、教えられたいなー」
と思うようになり、当時の自分にとっては完全未知の
ファミレスのバイトを始めることにした。

で、そのファミレスのバイトが相当にハマった。
毎日毎日、バイトに行くのが楽しくて楽しくて仕方がなかった。

ベテランのパートのおばちゃんたちに可愛がられて、
仕事を教えてもらったり談笑したり、
クラスメートだったとしたら卒業まで仲良くなることはないだろうな、
というタイプの子ととても仲良くなったり、
繁忙な一日を、汗だくになりながらバイト仲間と団結しながら切り抜けたり、
「君、笑顔がいいね。うちの息子の嫁にならないか?」
と常連のお客さんに言われたり。

人見知りな性格で、かつ高校までTHE・オタクな日々だったため、
クラスの中では大人しく、図書室や部室でだけオタクな会話を交わせる友人たちと
盛り上がるタイプの人間だったのだけど、
その自分が仕事を介すると、こんなにも色々な人と仲良くなれるんだな、ということが
とても新鮮な驚きで、とても嬉しかった。

お客さんからのクレーム対応すら、それをうまく対応できるようになった時に
自分がレベルアップしたような感じがして楽しかった。


ビジネス書を読み始めたのも、この頃だった。

雑談から仕事の話まで、楽しそうに聞いてくれる店長だったので、
仕事について感じた問題点を、よく店長に言っていた。
だけど、私が文句ばかり言っていたせいか、ある時、
「じゃあ、それについての解決策を考えてみてよ。続きはそれから話そう」
と言われた。
店長と話すのが楽しかった私は、
続きの会話をするために、頭を捻って自分なりの解決策を考えようと試みて、
自分の頭から出てくる内容の稚拙さに愕然とした。
これでは駄目だ、と他学科の経営学の授業を受講して、ビジネス書を読み始めた。


そんな風に楽しいバイト生活だったが、それでも私は
「あくまで学生バイトとしての楽しさだろう」
と考えていた。
社員である店長の仕事の内容は、
私がやりがいを感じている接客やチームワークよりも数字管理がメインで、
魅力を感じなかった。
大学を卒業したら、きっとどこかの会社の技術系の職種に就いて、
普通の会社員として働いていくのだろうなぁ、
とぼんやりと思っていた。

そんな私の就職や仕事に対するイメージがガラガラっと崩れたのは、
大学3年の春に元ホテルマンの男性がバイトで入ってきた時だった。

その少し前に高校生の男の子がバイトに入ってきて、
私と同じフロア職に配属されたのだけど、
やる気なさげで愛想もなく、
「あの子は、この仕事に合ってないね。すぐ辞めるだろうね」
てな会話をパートのおばちゃんと交わしていた。

ところが。
その男の子と元ホテルマンの彼が組んで仕事をするようになってから、
男の子の仕事ぶりが、メキメキと上がっていったのだ。
その様子があまりにも不思議だった私は、元ホテルマンの彼に、
いったいどういうことなのか、とあれこれ質問した。

元ホテルマンの彼に教えてもらったことを要約すると、
「人材育成や接客、チームワークは理論」
ということだった。
そしてその理論をビジネスとして突き詰めているのが、
ホテル・レストラン業界だよ、と。
「君のように接客に対して意欲的な人は、ホテルが向いているように思う。
 就職先にホテルを考えてみたら?」
そう言われた。

この時、それまで自分が
「何となくこうだろう。こうなるだろう」と思っていたものが、
一気に崩れた。

自分は昔から理系で、家族や周りからもそう思われてきたから、
きっと理系の職種に就くのだろう。
どれだけ楽しくてもバイトはバイト。
仕事はバイトの延長ではなく、学校の延長にあるもの。

「何となく」、そう思っていた。
だけど、自分がそれまで疑わずに抱いていた「何となくの未来」を、
この時、初めて疑いの目で見た。

これまで理系で来たからといって「自分は理系の職種に就く人間」と考えるのは、
ただの思い込みでは?
「バイトだから楽しいのであって、仕事になったらつまらないはず」というのも、
ただの思い込みでは?
だって、大学の友人たちは私のようにバイトに情熱を傾けていない。
「バイトだから楽しい」とも限らない。
それと同じように「仕事になったらつまらない」とも限らないのでは?
嫌なこと、大変なこと、全部ひっくるめて、仕事を楽しめるはずでは?
"好き"を貫いて、仕事にしていくことは、可能なのでは?


そうして、私はホテル・レストラン業界の情報を集め始めた。
まだ一学年上の人たちが就活している時期だったけれど、そこに混じって
ホテル・レストラン業界の就活イベントに行ったりした。

年が明けて、自分の学年が就活シーズンを迎えた時、
一度だけ、メーカー系の合同就職イベントに大学の同期たちと一緒に行ってみた。
だけど、どれもピンと来ず、やっぱり自分はホテル・レストラン業界だな、と思い、
そこに絞って就職活動した。
同期の友人たちは、そんな私を奇異な目で見ていた。

しかし、そんな風に同期の誰よりも早く就活に向けて準備していたにも関わらず、
他の同期が全員内定をもらう頃になっても、私は1つも内定をもらえなかった。
第一志望のホテルのグループ面接では、学生が4人いる中で、
面接官が後半、ほぼ私一人とだけ会話をするという
確かな手応えを感じる状況だったにも関わらず、
届いたのはお決まりのお祈り通知だった。

季節は夏に入り、いい加減、進路を決めて研究に専念しなければならない
時期になっていた。
いっそレストランやホテルにバイトとして入って、
そこから正社員を目指すことにしようか…。
そんなことも考え始めていた頃に受けた某レストラン会社で、
採用担当の人が見かねたように私に言った。
「あのね、君はどうしてもレストランやホテルっていう雰囲気じゃないんだよ。
 言っていることは、とっても良い。だけど、どうしても、雰囲気じゃないんだよ。
 たぶん、この先どこを受けても、この業界ではどこにも受からないと思う」

言われて、これまで受けた面接の中で、
採用担当の人に「学生のどういうところを見るのか」と聞いたら
「雰囲気かな」と返ってきたこととか、
「君の家族や友人は、君がホテルを受けることについてどう言っている?」と
しつこく尋ねられたこととか、
この時、全て繋がった。

面接の帰り道、地下鉄のホームで茫然としたのを覚えている。
進路を変えるしかないことだけは理解したけれど、
これからどうすればいいんだろう…と。


「私の雰囲気って一体何よ!?」
大学の研究室に戻って、同期に半泣きで尋ねたら、
システムエンジニアじゃない?」
即答された。

「そういう『プログラミングができる=システムエンジニア』みたいな
 安直な発想やめて」
憮然と返したが、ホテル・レストラン業界一本でここまで就活を進めてきたため、
どちらにしろ他の業界の情報を集めるところからやり直さざるを得なかったので、
ひとまずシステムエンジニアで募集をかけている企業をいくつか探して
説明会に出かけた。

そこで説明されたのは、
「顧客のために、チームで協力してシステムを開発する」という仕事内容だった。
それを聞いて、
「ひたすらパソコンに向かって一日を過ごすだけの仕事かと思っていたけど、
 人を喜ばせるために、仲間と協力する仕事なんだな」
と思った。そして、
「やりたかった接客やチームの仕事を、
 自分が趣味で培ってきたプログラミングスキルを活かす形で出来るならば、
 きっとそれは素敵なことだろう」
そう思い、そこからIT企業を数社受けて、とんとん拍子で2社から内定をもらい、
そのうちの1社に就職を決めた。


就職した後、たまに上司や同僚から、
「君は趣味が仕事だからいいよなぁ」
と言われると、
「趣味の延長でこの仕事を選んだんじゃないわい!」
と言いたくなるのは、こういう経緯を経たからだと思う。


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