ゴマ栽培記(後編)

5月に排水溝から芽を出した謎の植物の正体がゴマとわかり、
私はゴマの栽培方法についてネットで調べた。

 

一年草。暑さに強く、多少、水が足りなくても大丈夫。開花時期は7月から8月」
大体、そんなことが書かれていた。
なるほど、暑い国の植物なのか。
我が家のベランダは風通しよくて、夏場でも涼しいことがあるし、
以前にかぴかぴに乾いて、芽がひとつ、ダメになってしまったこともあるので、
やっぱり室内で育てることにした。

 

ゴマは少しずつ生長していった。
家に遊びに来た友人諸氏には、
「排水溝から生えてきた謎の植物なんだけど、たぶんゴマだと思う~」
などと紹介もし。

 

が、月日が流れ、8月が過ぎて9月になっても、花の咲く気配がない。
というか、一応生長はしているのだけど、ネットの写真で見るゴマの葉の茂りがない。
身長も全然足りないし、葉っぱの色もなんとなく薄い。

 

うーん、やっぱり室内飼いだからだろうか。
でもベランダに出すのも、やっぱり心配だしなぁ・・・。

 

そこで、
レースのカーテン越しに浴びる太陽の光では物足りないのかもしれないと思い、
窓ガラスとカーテンの間に鉢を置いてみることにした。

 

そのまま、毎年恒例の一週間強のツーリングの旅に出かけて、9日後。
ツーリングから帰還した私は、
「ゴマは元気かな?水あげてなくて大丈夫だったかな?
 なんかカーテンのところが心なし、こんもり膨らんでいる気がするけど……」
と思いながらカーテンを開けて、思わず、「うわっ」と叫んだ。
出発前には10cm足らずだったゴマの茎が、優に30cmの高さに生長し、
こんもり葉を茂らせていたのだ。
おそるべし、太陽の力。

 

その後も、ゴマは窓ガラスとカーテンの間で残暑の太陽の光を浴びて、
ぐんぐんと育っていった。
さすがに鉢が小さくなってきて、大きいものに買い換えようかどうしようか、
でも、窓ガラスとカーテンの間じゃ、あまり大きいものも置けないしなぁ・・・、
なんてことを悩みつつ、とりあえず、自立するのがおぼつかなくなってきたゴマを
窓ガラスに寄りかからせて凌ぐ。
が、そのうちにそれも厳しくなっていって、ゴマの茎は床に倒れ込む。
ありゃりゃ、と思うが、ゴマは床を足場にしてさらに背を伸ばしていく。
実に逞しい。

 

そうしていくうちに、秋も過ぎ、冬に突入していった。
ネットの情報によれば、とっくに寿命を終えている頃だ。
しかし、我が家のゴマは、いまだまったく蕾を付ける気配もない。
うーん、と首をかしげつつも、まぁ、きっと飼い主に似てマイペースなんだろう、
と思うことにした。

 

そして、次の夏くらいには花をつけるかなー、とのんびり構えていた、
師走上旬。
ふと、枝の先端に黄色いもののあることに気づいた。
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(ここまで成長しました)

 

おぉ!これは!!
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開花時期をまったく過ぎた冬に花を咲かせる、我が家のゴマ。

 

やがて、花は散り、花のガクだったところが膨らんでいく。
そうか、そういえば実ってこういう風にできていくものだったけなぁ、
小学生の頃に学校で栽培していたアレコレの植物を思い出す。

 

新年を迎えた頃には、丸っとかわいい感じになっていた。
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かわいい。
かわいい、が。この実は・・・。




これって、もしかして、トマトじゃなかろーか?

 

「トマト 栽培」
でネットを検索する。
すると、出てくる写真、出てくる写真が、
この半年以上、見続けてきた葉とか花とかと全く完全に一致するという!

 

マジかーーー!
うちに来る人たちみんなに、「ゴマよ」って紹介してたのに、
こっそりゴマの詩とかも書いたりしてたのに、
トマトだったんかい!!!

 

心の中で付けていた栽培記の名前を訂正する。
ゴマトマト栽培記」
(ちなみにトマトも夏に開花する一年草

 

あの5月を思い出す。
私はトマトを食べただろうか?
自問するも、やっぱり、わからない。
わからないけれど、目の前の植物はまぎれもなくトマトで、
やがて綺麗に色づいていった。
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実が小ぶりなのは、
ミディトマトだからなのか、
はたまた、この小さい鉢で育ったせいなのかは、わからない。
なぜなら、5月に自分が食べたのが、
普通のトマトだったのか、ミディトマトだったのか、
さっぱりわからないから。

 

そうして、ある日。
うららに実った赤い実を摘み取って、食卓に並べた。
口を大きく開けて、まるっと口にほおばったそれは、
しっかりしていて、ほんのり甘酸っぱかった。

 

いやぁ、トマトって、こんな風に育てられるものなんだねぇ。
しみじみと思う。
またそのうちに何か植物を育ててみようかなぁ。
でもトマトは伸びてくと不格好だから、バジルとかの方がいいかなぁ・・・。
そんなことを思いながら赤い実をしっかりと味わう。

 

 

そうして月日は巡り、再び春が来て。
我が家の排水溝から、なぜか今年も小さな芽が。
今年は2週間も放置していないのだけどなぁ・・・。
首をかしげつつも、その芽を取り上げて、鉢に植え替えた。

 

これは果たしてトマトだろうか。
それとも今度こそ、ゴマだったりするのだろうか。

 

そんなことを考えながら、新たな芽の成長を見守る今日この頃。
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(手慣れたもので、今年は取り上げた3つのうち3つとも、すくすくと成長中)