Special Thanks For 11years

satoko_szk2014-05-22
2014年5月20日。
11年間、勤めてきた会社を退職しました。


今回のことについて、何から書こう、と考えた時、
やっぱり、6年前のことからだな、と思ったので、
長くはなるけれど、そこから書くことにします。


         * * *


6年前のちょうど同じ季節。
私は会社を辞めようとしていた。
3年間考え続けた上での、本気の決断だった。


色々なことが嫌だった。
親会社との関係による色々な制約とか、
親会社に文句を言いながら、都合よくそれを隠れ蓑にしていることとか、
頑張る人だけが頑張って、そしていつか疲れて辞めていくこととか、
それがわかっているのに、孤独に疲れていく人をただ見て見ぬ振りしていることとか、
仕事を正面から楽しもうとせずに、グチを言い合って馴れ合っているところとか。
そんなことが何もかも、本当に嫌だった。


私は120%の力で走りたかった。
正面から仕事を楽しんで、
大切な人達を笑顔にするために、全力で走りたかった。


だけど、この会社では、それができない。
だから辞めることを決めた。


大泣きしながら、課長に辞意を伝えた夜のことは
今でも、よく覚えている。
(泣きたいのは課長の方だったと思うけど)


だけど、転職活動を進めていって、ある企業と面接していたときに、
自分の中で何か、違和感を感じた。
面接を終えた後、その違和感の正体を考え続けて、
そして気付いた。


私が笑顔にしたい人達の中には、この会社のみんなが含まれているんだ。
私は、この会社のみんなと一緒に走りたいんだ――。


そう気付いてしまった。
だからといって、どうすればいいのかわからず。


月曜の明け方だった。
その日の夜には、部長との面談を控えていて、
それまでに答えを見つけなければいけなかった。
ドン詰まった状態で、空が白んでいくのを見ながら、
どうしよう、どうしようと思いながら、
ふと、あるDVDを手に取った。
私の大好きなアーティストのドキュメンタリーだった。


何を思って、そのDVDを手に取って、再生し始めたのかは
よく覚えていない。
ただ、観ていくうちに、こんな言葉が流れた。


「たとえば、私が『みんな走ろうよ』と言ったとして、一緒に走ってくれる人はいない。
 だけど、もし、私が90周走ったら、そのうちの1周を一緒に走ってくれる人は絶対いる。
 だけど、そのためには、やっぱり90周走らなければいけないんだ」


その言葉を聞いた瞬間、
あぁ、私はまだ90周走っていなかったな。せいぜい8周だ。
私はまだみんなに何も伝えてない。
伝える前から、どうせ伝わらないと諦めていた。
そう気付いた。


そうして、この会社に残ることを決めて、
私は走った。
心の中で『90周プロジェクト』と銘打って、
走った。


数打ちゃどれか当たるかもしれない、と
あっちこっちに色々な球を投げてみたりもして。


そうして、いつしか、私の投げた球を拾い上げて、
一緒に走ってくれる人達も現れた。
(あれ〜、まだ90周走ってないのになぁ。15周くらいなのになぁ)
そんなことを思った。
うれしかった。楽しかった。


         * * *


私には、やりたいことがあった。
大切な人達と一緒に、やりたいことがあった。


「それをこの会社で実現するのは難しいよ」
会社に残ることを決めた時、その夢を課長に話したら
そう言われた。
だけど私は、
「やります!」
と言いきった。
90周走ればいいだけのことなんだから。


         * * *


そして、5年経った頃。


色々なことが重なりあって、
理不尽としかいえないことが起こった。


私は、それでも負けずに走った。


そうしたら、不意に、私の願いが叶えられた。
理不尽にも負けずに、頑張り続けてきたから、
願いが叶えられたんだと思った。
全てが報われたと思った。


だけど、そう思った瞬間に、
叶ったと思った願いが、さーっと、私の手からすり抜けていってしまった。


その途端に、ふつり、と自分の中で何かが切れて、
動けなくなってしまった。
一歩も動けなくなってしまった。


まだ90周走っていないのはわかっていた。
せいぜい、25周くらいだと思う。
だけど、走れなくなってしまった。


たくさん、人を恨んだ。
何かひとつ、誰かの行動が何かひとつ、違っていれば、
結果は全く変わっていたはずなのに、と。
そして、何よりも、
頑張れ、頑張れ、と言い続けるだけのような自分の運命を呪った。


そんな想いにとらわれていても、
先に進むことはできないとわかっているのに、
そこから抜け出すことができなかった。


そうしてまったく動けないままに、半年が過ぎた。
そのまま、1年経っても、10年経っても、
たぶん、自分はこのまま動けないだろう、
そう思えた。


マンション買って引っ越すことを決めたのは、この頃だった。
理由は他にも色々あったけど、
気分転換になるかな、と思ったのもあった。
実際、マンション買ったり、リフォームしたりするのは本当に楽しくて。
こういう風に、仕事以外のことに楽しさを見出して、
そうして日々をやり過ごしていくのも一つかな、と思った。


だけど、やっぱり仕事に真向かわないといけない時は来て。


その頃なぜか、“好き”を仕事にしてるんだろうなぁという人たちと
出会うことが多かった。


その人達を見ていて、
  私も本当はこんな風に、まっすぐに“好き”に気持ちを注いでいきたいんだ。
  苦しむなら、その“好き”の道の途中で苦しんでいきたいんだ。
  そうやって生きていきたいんだ。
  それなのに。
すごく、そう思った。



2月の終わりだった。
会社でパソコンのディスプレイを見ていたときに、
不意に唐突に、『転職』という言葉が頭に浮かんだ。


この6年間、本気の言葉としては、一度も頭に浮かべることのなかった言葉。
その言葉が浮かんだ瞬間、
ふわっと体が軽くなって、周りが明るくなって、
何か暖かいものが降り注ぐような不思議な感覚がした。
比喩じゃなく、本当に。
びっくりして、思わず、天井を見上げた。
だけど、そこには、いつもと変わらない、節電対策で間引かれた蛍光灯が薄く光ってあるだけで。


あぁ、そうか。
その選択肢はあったんだな。


不思議な感覚に驚きながら、そう思った。


この場所で90周走れない自分を認めて、負けを認めさえすれば、
別の道は開けたんだな。


そう気付いた。


もう、いいかな。


すとん、と胸に落ちるように、そう思った。


思えば、どこかに無理があったのだろう。
自分の中でしっくりこないことを、無理して頑張ってきていた部分が
あったのだと思う。
だから、人や未来に報いてもらうことを求めてしまっていたんだろう。
だから、うまくいかなかったときに、
「こんなに頑張ってやってきたのに、どうして?」
そう思うことから逃れられなかった。


理不尽なことなんて、自分を貫いていく限り、
この先もいくらだってあるだろう。
そんな時に、未来を夢見るエネルギーだけでは、
どこかでついえてしまう。破綻してしまう。
「今」で得たエネルギーで、次に繋げていけなければ駄目なんだ。
そういう「今」でないと、駄目なんだ。


この半年間、私をがんじがらめに縛っていたのは、
人とか運命とか、そういうものではなくて、
「この場所で90周走る力のない自分」を認めることのできない自分自身だったんだろう。


私にもう少し強さがあったら、いつかこの場所で夢を叶えられたかもしれない。
どんな場所でも、枯渇しないエネルギーを持ちつづけていられる力、
あるいは、どんな場所でも、自分のエネルギーになるものを見つけられる力、
そんなものを持てていたら、叶えられたかもしれない。
だけど、そこまでの力は、なかった。


だから。
自分の限界を認めて、想いを貫けなかった自分を認めて、負けを認めて、
次の場所へ行こう。


そう決意した。


そこからは一気だった。
課長に辞意を伝えて、転職活動をして、
引越しと並行という無茶なスケジュールだったけれど、
1か月でほとんどのことは終わっていた。


気持ちに、これっぽっちも迷いはなかった。
6年前に辞めようと決めた時には、
3年間の熟考の上だったけれども、
それでも気持ちは完全には定まらず、グラグラ揺れていて、
辞める時というのは、そういうものなんだろうと思っていた。
だけど、今度は、本当にこれっぽっちと揺らがなかった。


6年前よりも、もっとずっとたくさん、大切な人たちはいるのに、
たくさんたくさんいるのに、
これっぽっちと揺らがなかった。


それは、きっと、
今の自分にできることは、全てやりきったと
心の底から思えていたからだと思う。


それでも、
6年前のように、転職活動のどこかで、
やっぱりこの会社でやっていこう!
と思える何かを見つけられたら、という想いもあった。
それがないだろうことを確信してもいたけれど、
それでももしも、そんな気持ちにもう一度なれたなら・・・
そう思う気持ちはあった。
だけど、やっぱり、そうはならなくて。


         * * *


この6年で、
たくさん、変えられることのあることを知った、教えてもらった。
そして、変えることのできないこと、自分には難しいことも、はっきりわかった。
転職活動を短期間で終えることができたのは、
自分の条件を“変えられないもの”に絞れたからだと思う。



6年前、辞めることをやめたときに、
自分の道、というものについて気づいたことがあった。


考えが近かろうが、近くなかろうが、
色々な人と話して、交わって、
それで、色々な人たちが吐き出すものの中から
自分に必要なものを拾い集めて、
欠片を集めて、
自分の足元に道を作っていくんだ、ということ。
足先10cm分の道を、
少しずつ作って、少しずつ進んでいくんだ、ということ。


そんな話を当時、課長に話したら、
「それが君のキャリアだよね。
 会社が後付けで定義したキャリアのことではなくて、
 たとえ会社を変わったとしても、変わらない君自身のものだよね。
 またいつか、転職を考えるときが来ても、その時には、
 今回とは別の考え方で別の道を考えられるよね」
そう言われた。
その時は、
(ここで頑張っていく話をしてるのになぁ・・・)
なんて思ったりもしていたのだけど、はからずも、その通りになって。


結局、6年前も今も、私のやりたいことに本質的な違いはない。
だけど、次の場所は、今の私だからこそ選べた場所だ。
私のこの先の道は、今ここまでの道の先に続くものだ。


         * * *


次の場所が決まって、会社を辞めることも正式に確定して、
4月半ばからの1か月は、特別な時間だった。


大切な人たちへ、少しずつ、退職することを伝えていって。


新しい場所へ進んでいきたい。
だけど、みんなとも離れたくない。


それが、とんでもなく、わがままだけども、
偽りのない気持ちだった。
だから、この先の道に確信はあったけれど、
ぶり返しの来ることもあって。


もしも理不尽なことが起こらなければ、
今力尽きることも、この選択を取ることもなく、
みんなと離れることもなかったのに、と。


「転職するときには、それによって得るものと失うものがある。
 それが何か、考えた上で転職をしなさい」
6年前に、ある転職セミナーで言われた言葉。
私にとって、失う最大のものは、6年前も今も、
“この会社で培ってきた大切な人達とのつながり”だ。


だけど、私が会社を辞めることを伝えたとき、
みんなは私を応援してくれた。
無言を返されるのも覚悟していたけれど、
返ってきたのは、暖かい言葉の数々だった。
そして、
これからもつながりつづけようと、
それぞれにそれぞれの言葉で言ってくれた。


ある人が言ってくれた。
「この人たちのために90周走ろう、と、あなたが思って走ってきた人達とは、
 たとえ、会社が変わったとしても、これからも絶対につながりつづけていけるよ」
 

その通りだった。


自分の力のなさを受け容れて、
自分の人生を自分の手に取り戻して、
それで、なお、私は大切なものを何一つ失っていない。


だったら、恨むものなんて、
もうどこにもないじゃないか。


         * * *


この半年間、
「今まで自分がこつこつやってきたつもりだったことなんて、
 結局、誰にも伝わらず、何の意味もなしていなかったんだろう」
そう思っていた。


だけど、
たくさんの花束と、たくさんの言葉をもらって。
思いがけない人からのメールも届いたりして。


「きちんと届いていたよ」
たくさんの人が言ってくれた。
たくさんの人が私のことを見ていてくれたことを知った。


たくさんのマルと、
いくつかの「ここは直しましょう」のコメントも、
もらったりして。


まるで、11年間の通知表を受け取ってるみたいだな、と思った。


『よくがんばりました。
 ここを直せば、もっともっと良くなるでしょう。
 がんばってください』


暖かな、暖かな、
私の11年間の通知表。


         * * *


そんな風にして、
大切な人達の言葉で、
心が暖かさと優しさで満たされていって。
どんどん、どんどん、元気になっていって。


大学の時の先生に、報告がてら会いにいったら、
「今までも『転職する』と言ってきた教え子はたくさんいるけれど、
 お前みたいに明るい奴は初めてだ」
そう笑われた。


そして迎えた5月20日。


180個のロシアンルーレットチョコレートを用意して、
会社中を配り歩いた。


たくさんの人達と笑いあって。
そして、
「じゃあ、またね」と笑顔で手を振り合って。


         * * *


この6年で新たに出会った、たくさんの人たち。
6年前から既に知り合っていた、たくさんの人たち。


それぞれと、かけがえない関係をここまで築いてきて、
6年前のあの時よりも、はるかに、別れがたい人たちは増えました。
6年前に辞めずに、ここまで続けてきて良かったと、
心から思います。


たくさんの迷惑をかけていきますが、
この先の場所で、
思いっきり笑って、思いっきり走る自分で在ることで、
みんなに返したいと思います。


私のここまでの道は、
みんなからもらったたくさんの欠片で敷き詰められて、
きらきら、きらきら輝いてます。
たくさんのきれいな欠片をありがとう。


ここから先、新たな場所で欠片をかき集めて、
続きの道を作っていきます。


少しの不安はやっぱりあるけれど、
みんながたくさんの暖かな言葉をくれたので、大丈夫です。
みんなの言葉が私のこれから作っていく道の先を
暖かく照らしてくれています。


みんな、みんな、
本当にありがとう。


溢れんばかりの感謝をこめて。


そして。
これからも、どうぞよろしく。

巡り会いの中で生きてく  また人を少し好きになる
喜びや悲しみさえ全て  自分の事と受け入れたなら
恵  愛の中で満ちてく  逃げずに自分の事も好きになっていく
出会いも別れも乗り越えた  君はもう一人じゃないよ  ずっと
永遠に  ずっと